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元はといえば、本気で好きにならないとぼやいていたのをたまたま聞かれていて、興味を持たれた程度の繋がりでしかない。それにも関わらず胸が苦しくなるぐらいに好きになってしまっただなんて、結城くんからすると裏切りでしかない。そもそも、手を伸ばしても絶対に届かない神さまに恋をしてしまったこと自体が間違いだったんだ。
あの星野さんと勝負をするだなんてとんでもない、お門違いも良いところ。そんな生き恥を晒すぐらいなら、今抱いている不相応な感情を消してしまう方がきっと何倍も楽だと思う。
「……さゆちゃんはそうやって簡単に言うけど、わたしみたいな人間にはどうやっても無理なんだよ。どうにでもなる創作と違って、現実に夢を見たらダメなのっ。現実でぼーっと夢なんて見ていたら、いつか足元をすくわれて絶望する! 強いさゆちゃんには分からないだろうけどっ」
「馬鹿じゃないの!」
さゆちゃんが珍しく怒ったように口を荒げたものだから、驚いてハッとした。彼女がバンッとテーブルに手をついた時、コップに残っていたオレンジジュースが波立った。
「……詩葉って、ほんとうにバカ! それは知ってたけど、でもこんなにバカだなんて思ってなかったっ」
「っ」
あまりの剣幕に圧倒されてしまって、ひゅっと細く息を呑み込むことしかできなかった。
「これだけは言っておくけど、星野さんが可愛いからとか、私が強いからとか、そういうの今の話には何一つ関係ないから。詩葉がそんなんじゃ、変えられるかもしれないものも何一つ変わりやしない!」
さゆちゃんは背負ってきたリュックに荒々しく手を突っ込んで水色の長財布を取り出すとそこから五百円玉をテーブルに置いて、「……私、もうバイトだから行く」と立ち去っていった。
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