十章 決意

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 気がつけば夏休み最終日だというのに、未だに宿題が一部終わっていない。まぁ例年のことだけど。今年は折角の長期休みなのにほとんどクーラーを効かせた自室にこもり、もぬけの殻のようになって過ごしていた。家族に心配されない程度には外出するようにしていたけれど。    この夏休みの唯一の成果物といえば、昨夜になんとか『あたしは学園の王子様の偽の恋人』を完結させてピリオドを打ったことぐらいだ。  月影(つきかげ) 詩織(しおり)は、紆余曲折経ながらも最終的には雪永(ゆきなが) 広貴(ひろたか)に本当の想いを伝えることができた。 『本気で好きになってしまったから、もう、雪永くんと偽の恋人を続けることはできない。苦しいから』と。  この頃、塞ぎがちで挙動のおかしかった詩織の本音をやっと聞くことのできた雪永くんはラストシーンで安堵したように微笑む。 『先に言われちゃったか。実は、同じことを言おうと思っていたんだ』  二人は晴れて本物の恋人同士になりましたとさ、めでたしめでたし。物語はわたしの大好きなハッピーエンドで幕を閉じる。  三ヶ月ほどを費やして書いていたので、完結した時にはそこはかとない達成感と言いようのない寂しさがあった。特に主人公には並々ならない気持ちを寄せながら書いている分だけ、完結する頃にはいつも赤の他人とは思えなくなる。ラストシーンを執筆してる時なんて気持ちがこもりすぎて、深夜に一人部屋の中で煌々と光るPC画面を見つめながら「詩織ぃ。よかったねえぇ……っ」と鼻水をすすりながら涙していた。  いつの間にかカーテンの隙間から漏れていた陽の光が目に眩しい。ごろりと寝返りを打って壁時計の時間を確認すると、意識の中ではまだ九時ぐらいだと思っていたのに実際は十一時だった。もう少し経ったらお昼の時間だ。長期休み中はいつもすっかり昼夜が逆転していて、時間の感覚がどんどん狂っていく。今日が終われば二学期が幕を開けて、この怠惰な生活ともおさらばだけれども。
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