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「さゆちゃん。三週間前は、ごめんね。本気で叱ってくれて、ありがとう」
「私こそごめん。ちょっと強く言い過ぎたかもって反省してた」
「ううん。あのね、さゆちゃん。わたし、決めたよ」
彼女が小さく息を呑んだのが電話越しにも伝わってきた。
「わたしのことをね、小説を書けるなんてすごいじゃんって言ってくれた人がいたんだ。それがね、すごくすごく胸に沁みて、嬉しかった。それで、気がついたの。わたしはずっと、小説を書いている自分を認められていなかったんだって」
黙って耳を傾けてくれているのだと分かったから、落ち着いて自分の心を吐き出すことができた。
「わたしには、みんなと違って何にも誇れるものがないと思って、勝手に他人と向き合うことを遠ざけていた。でもね、今やっと、少しだけ小説を書いている自分のことを好きになれそうか気がする。わたしには、小説があるじゃんってちゃんと思えている。それでね、物語みたいにはうまくいかないかもしれないけど……ちゃんと、結城くんに向き合いたいって思えたの」
本心を吐き出しきった時、身体中が火照っていた。わたしの話を聞き終えると、さゆちゃんは小さく息を吐いて言った。
「そっか。私も、詩葉はすごいなってずっと思っていたよ」
「えっ」
「私はゲームが好きだけど、作ることなんてとてもできそうにない。作品を享受することしかできない消費者にとって、創作者は神さまみたいな存在なの。どんな分野であってもそう。だからね、詩葉は私の自慢の親友だよ」
また、熱い涙がぼろぼろとこぼれてきた。伝ってきた涙で寝間着に染みができてしまった。伝えたい感謝の言葉は数えきれないほどあるのに、全然、うまく言葉にならない。
「……なんか言ってよ。気恥ずかしいでしょ」
「っ。ごめん、ちょっと……嬉しすぎて、言葉に詰まっちゃって」
「ふふ。詩葉らしい」
そのやさしい声音で、電話越しのさゆちゃんが微笑んでいるのが見えた気がした。
「応援してる。どんな結果になっても、最後まで向き合わずに後悔するよりずっと良いと思うから。伝えたい分だけ、ちゃんと伝えておいで」
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