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「ここだけの話です。ここにはイヌコと呼ばれる妖怪がいますんですわ」
怪異、と聞いて小鳥遊は顎をさする手を止めた。嫌な予感が背筋を凍らす。
「イ、イヌコ? それはなんという字を書くのですか?」
「私は学がないのでてんでわかりません。夕陽に照らされて顔は見えない、服も見えない。だのに、遠くからでも子供とわかる」
「それは……、大きさから推測できるろう?」
「いいえ、うんと遠いのですよ。イヌコは手を振り回し、ここだここだと言うのです。見つけて欲しいのでしょう。そして見つけた人を憑き殺す。特に稲田は……」
インカイはそう言って立派な屋敷を見、そしてゆっくりと小鳥遊を見た。
「裕福でしょう? だからイヌコは自分を見つけて子にしてくれとせがむのです」
「妖怪なのに?」
「なり変わり、なのでしょうよ。うちから食って子供に化ける……」
「インカイイ!」
小鳥遊が「そがなバカなことを!」と叫ぶ前にどこからかインカイに向けて罵声が飛んできた。二人の視界の先には中年の男がいる。
頭をボサボサにし、服も乱れた男はひどく興奮した状態でインカイを見ると持っていた石を投げるそぶりを見せた。
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