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第壱章 遠征
一
梅雨も開け、外は雲ひとつない。
だというのに、五条邸はいつもひんやりとしており、それはどこか墓所にも近い薄暗い雰囲気を抱かせた。
「外はどうなっていますか?」
この部屋の主人、五条 椿が尋ねる。
腰まで伸びた艶のある黒髪。その髪は光に透かせば青にも見える。
一度も外に出されることが許されないため、透き通るような、一見病人にも思える肌。澄んだ琥珀の瞳はいつだっていろんな人間を惹きつける。
「暑い。まっこと暑い。執筆に集中できん」
答えるのは小鳥遊 辰巳と名乗る小説家だ。
といってもまだ書生の身であり、今は先生の元で暮らしている。そんな彼はだらしなく投げ足のまま椿から出された茶をすする。
「小鳥遊様の原稿はまだ頂けておりませんね」
「えいのが出来たら渡す言うちょる」
「そう仰られてもう何年経つでしょうか」
意地悪く問う椿に小鳥遊はボリボリと頭をかいた。雪のように不毛が飛び、廊下にいる女が目をギョッとする。
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