第弐章 屋敷

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「インカイと言います」 「インカイ? 変わった名前ですね」 「元はイヌカイからきています。それが鈍ってインカイと……」 「では、インカイと言っても犬を飼うと書くんですか?」  小鳥遊が問うとインカイは少し呆気に囚われているようだった。そしてそこからややあって「へえ、まあ、そんなものです」と曖昧に返事をする。 「どうも自分には学がありませんで。字がぱっと出てこないんですわ」  恥ずかしそうに、しかしへらへらと笑いながらインカイは言う。  小鳥遊はなんとも媚びた笑みだと思ったが、それは自分も対して変わらないのできわめて顔に出さないように気を付ける。 「ボクは小鳥遊といいます。といっても小鳥が遊ぶと書くんですよ」 「それでタカナシと呼ぶのですか」 「鷹がいないから小鳥が遊べる、とね」  と、先生のように言うと相手はひゃあと阿呆のように声をあげた。 「なんとも粋な名前ですね。して、あなたは使用人でありながら学もあると」
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