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【 えんぴつくんのお父さん 】
僕は『えんぴつ』。
僕の兄弟は、12人と多め。
僕たちは、初めは箱に入れられていて、一人ずつこの家の子供に引き取られていく。
僕の番は、抜き取られる順番からすると、3番目なので、僕は三男坊ということになる。
「あっ! いよいよ、僕の番がやって来たようだ」
容赦なく、この家の子供は僕の頭を『ゴリゴリゴリ……』と削り取る。
僕の頭は最初は平らだったのに、『トッキントッキン』に尖ってしまった。
でも、そんなに尖らせると、僕の頭は、折れ易い……。
『ボキッ!!』
「ほらね。僕の頭、折れちゃったでしょ?」
と言っても、この家の子供に聞こえるはずもない。
また、この家の子供は、僕の頭を『トッキントッキン』に削ってる……。
僕は、『ノートくん』との相性は抜群だ。
いつもノートくんは、僕の頭の芯を全て受け留めてくれる。
そんなある日、ノートくんは僕にこんなことを言ってきた。
「ねぇ、えんぴつくん」
「なあに、ノートくん」
「えんぴつくんのお父さんはどこにいるの?」
「えっ? どうしてそんなこと突然聞くの?」
「だって、えんぴつくんの兄弟はよく見るけど、えんぴつくんのお父さんは見たことがないから」
僕は、ノートくんの言葉に、声を詰まらせた。
そう言えば、僕のお父さん、お母さんはどこにいるんだろう……。
そこで、僕はノートくんにあえて聞いて見た。
「僕もお父さんは見たことがないんだけど、ノートくんは僕のお父さんは誰だと思う?」
すると、ノートくんは、こんな答えを出してくれた。
「えんぴつくんの形からして、多分、耳かきくんじゃないかなと思うんだ」
「そうか、長細いから、そうかもしれない」
僕は、机の上の耳かきくんに聞いてみた。
「ねぇ、耳かきくん、僕のお父さんは、君なの?」
「いいえ、違うわよ。あなたより細いし、頭に綿毛が付いてるもの」
「そうか、僕には綿毛がないもんね」
「えんぴつくんのお父さんは、そこにいるものさしくんじゃないかしら?」
「どうもありがとう。ものさしくんに聞いてみるね」
僕は、耳かきくんに言われた通り、ものさしくんに聞いてみた。
「ねぇ、ものさしくん、僕のお父さんは、君なの?」
「いえいえ、僕じゃないよ。僕は君の体と違って、竹で出来ているから」
「そうか、確かに僕と体の材質が違うもんね」
「えんぴつくんのお父さんは、そこに立っている大きな柱くんじゃないかな?」
「どうもありがとう。柱くんに聞いてみるね」
僕は、ものさしくんに言われた通り、大きな柱くんに聞いてみた。
「ねぇ、柱くん、僕のお父さんは、君なの?」
「いいや、俺じゃないよ。俺は君の体と違って、真ん中に黒い芯がないからね」
「そうか、確かに柱くんには、僕みたいな黒い芯はないもんね」
「えんぴつくんのお父さんは、窓の外に見える庭の木くんじゃないかな?」
「どうもありがとう。庭の木くんに聞いてみるね」
僕は、柱くんに言われた通り、窓の外にいる庭の木くんに聞いてみた。
「ねぇ、庭の木くん、僕のお父さんは、君なの?」
「いやいや、わしじゃないよ。わしは君と違って、枝の手が何本も生えているからね」
「そうか、確かに庭の木くんは、僕には無い枝の手が何本もあるもんね」
「えんぴつくんのお父さんは、実は、もうこの世にはいないんじゃないかな?」
「僕のお父さんは、もうこの世にいない?」
「だって、えんぴつくんの体だって、もうそんなにも小さくなっているだろう?」
「うん。随分、書いてもらったからね」
「そうやって、段々歳を取っていくんだよ」
「そうか、体が小さくなるっていうことは、歳を取るっていうことなんだ……」
すると、またこの家の子供が、僕の頭を『ゴリゴリゴリ……』と削り取った。
僕の体はどんどんと小さくなり、やがて、えんぴつ削りくんにも、限界がきた。
「えんぴつくん、もうこれ以上、君を削ることはできないよ」
「えっ? えんぴつ削りくん、僕をもう削ることができないの?」
「そうだよ。もう君をこれ以上削れない」
すると、この家の子供は、そんな短くなった僕を見て、
「何だ、こいつ。こんなに小さかったら、もう書くことが出来ないや。もうこんなのいらねぇ」
そう言うと、僕をゴミ箱くんの中に、投げ捨てた。
――僕はやがて、ゴミ袋くんと一緒に、車で運ばれて、とても臭い場所に投げ込まれた。
すると、ものすごく熱い炎くんが僕を燃やしていった。
「や、やめてくれーっ! あつい! あついよーっ!」
僕は体がどんどん焼かれていって、やがて黒い煙となって、煙突から空へ舞い上がった。
そして、風くんに運ばれて、街を抜け、川を超え、やがて、大きな森へと辿りついた。
そこは、何か懐かしさを感じる香りがした。
すると、ある大木くんが、僕に声をかけてきた。
「ねぇ、黒い煙くん、君はどこから来たの?」
「僕は、遠い街から風くんに運ばれて、やって来たんだ」
「君は、何故そんなに悲しそうなんだい?」
「それは、お父さんをずっと探していたんだけど、見つからなかったから」
「そうか。でも、君の香りは、私たちの香りに似ている気がするよ」
僕はその時、大木くんたちのささやきが、昔懐かしい家族のような声に聞こえた。
もしかしたら、この大木くんたちの中に、僕のお父さんがいるのかもしれないと思った。
しばらくすると、僕の体は段々と、引き裂かれていき、体がみるみる薄くなり、やがて小さな粒となった。
僕の記憶も段々薄れていき、どこか懐かしい、心地よい場所に
『ころころ』っと、転がった。
森の木陰からは、温かな陽だまりと、やさしい風が僕の体に当たっていた。
周りからは、微かに「おかえりなさい」という声が、最後に聞こえたような気がした……。
END
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