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アルタイル星出身の俺は「旅人」と出逢った。
彼はとても変な奴だった。輝金に包まれた服と純白の帽子を被って、お洒落な三つの靴を履いていた。こっちでは見かけない奇妙な恰好。気味が悪かった。
「オールトの方まで行こうと思うんですけど、道を教えて頂けませんか?」
「はあ? オールト? あんな辺境へ何で?」
「ご近所を訪問するのがお仕事だったんですが、ちょっと残業で」
はにかむように彼は笑う。ここからオールトの雲を通過するとなれば、ざっと6万年はかかる訳だけだし残業ってレベルではない。俺はいぶかしむように尋ねた。
「何か目的でもあるのか?」
「まあ、ちょっと」
言葉を濁す彼に俺はちょっとしたアイディアを思い付く。
「道を教えてやってもいい」
「ほんとですか?」
「ただし俺の宝石探しに協力して欲しい」
「宝石探し?」
「そう、特別な宝石を探していてね。あそこの星を見てくれ、爆発して粉々だ。あの中に俺の探し求める宝石があるんだよ。どうだ手伝うか?」
たまにだけど星は爆発する。
爆発した星の残骸は熱を帯びたままその場にとどまり、煌めく星雲状のリングを作るのだ、そのリング状の瓦礫山を俺たちアルタイル星人は「宝の山」と呼んでいた。
「それなら喜んで」
彼は俺の申し出を快く受けた。
それから俺と彼の宝石探しが始まった。結構長い時間を費やしたと思う。途中爆発のせいで高熱になったガスが襲い掛かってきたり星の残骸が雪崩れ落ちてきたり大変だった。
俺はひぃひぃ言いながら逃げ惑ったが、彼は思いのほか冷静に対処していた。
「なんでそんなに冷静なんだ?」
「仕事で慣れているので」
照れくさそうに微笑む彼との作業は、思いの外心地がよかった。
でもいつまでも宝石を探している訳にはいかない。タイムリミットが迫っている。
「早く、早く見つけないと」
「どうしてそんなに必死で宝石を探すんですか?」
「久しぶりに逢う女性がいるんだ。その人に特別なものをプレゼントしたい」
「大事な人なんですね」
彼の問いかけに俺はまっすぐと彼の目を見つめて頷いた。
「ああ」
「分かりました」
すると彼の身体が薄く白金色に輝き始める。
「僕も全力を出します」
周囲の光を自分の身体で反射させ始めたのだ。良く見れば彼の身体には無数の傷があった、宇宙を舞う瓦礫や極寒・灼熱に身体を酷使されたのだろう。ものすごい傷だった。
「見つけた」
彼がそう言って一つの石を掴んだ。石を半分に割ると、中からは光り輝く金剛の輝きを帯びた宝石が顔を覗かせた。
「おおっ!」
「僕の星ではダイヤモンドと呼びます」
「これだ! 俺が探していたのはこれだよ!」
俺がそういって大喜びすると、彼も控えめな笑顔で一緒に笑ってくれたのだった。
それから俺は彼と別れた。
彼はオールトの雲を目指して。俺は愛しいあの人の待つ天の川へ。
別れ際に彼は尋ねてきた。
「貴方の名前を教えて頂けませんか?」
そう言えば、お互いに名前を名乗っていなかったらしい。
「俺は彦星。アルタイルの彦星という」
俺の名乗りに彼はとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。
俺も彼に尋ねた。
「君の名前は?」
「僕はボイジャー2号。先に進んだ姉を追い駆けて宇宙の果てを探すんです」
どうやらそれが彼の目的らしい。
俺は離れていく彼の背中を眺めながら、その旅路が平穏であることを星に願うのだった。
その年の七月七日。
ダイヤモンドのように光り輝く一筋の流星がベガとアルタイルの間、天の川を煌めいたと地球では観測されている。それは彦星から織姫への贈り物などと人々の間では噂されるのであった。
<了>
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