来客

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「お父さん……。」 由子は呟くように言った。 「しかも、見終わって寝る前には、コップも綺麗に洗ってたのよ。」 と、紀子は言った。 「え!?」 由子は驚きを隠せずに、 「あの、お父さんが洗い物?」 と言った。 ━━由子は、高校卒業まで勇作達と暮らしていたが、勇作が洗い物をしているのを、見た事がなかった。 「コップとか、夜中に起きていた形跡を隠す為よ。」 と紀子は言った。 「そうだったの?」 由子は言った。 「でも、コップ一つだけ濡れていたり、おつまみが減ってるから、バレバレだったけど。」 と、紀子は微笑した。 「あぁ、なるほど。」 由子は言った。 「素直になれない人だったから……。」 と、紀子は呟くように言った。 「でも……。」 由子は不思議そうに、 「どうして知ってたの?」 と、首を傾げた。 「何を?」 と紀子は訊いた。 「私が出ていた番組よ。」 由子は紀子を見て、 「新聞のテレビ欄の出演者とかにも、名前なんて載った事がないのに……。」 と言った。 「あぁ、それね……。」 紀子は由子を見て、 「SNSとかよ。」 と答えた。 「SNS?」 と、由子は目を丸くした。 「由子がSNSで載せてる情報とかよ。」 と、紀子は言った。 「お父さん、機械音痴なのに?」 と、由子は不思議そうに訊いた。 「職場の若い子に、由子のSNSとかを見てもらって、それで知ってたみたい。」 と、紀子は答えた。 「お父さん、そこまでして……。」 と、由子は呟くように言った。 <ピンポーン> ━━家のインターホンが鳴った。 「はい。」 紀子が立ち上がって応答する。 『私、桜木部長の部下で、吉川(よしかわ)と申します。』 と、インターホン越しに男性の声がした。 「少々お待ち下さい。」 と言って、紀子は玄関へと向かった。 紀子は玄関のドアを開けた。 ━━そこには、一組の男女が立っていた。 「夜分遅くに失礼致します。」 と言って、男性━━吉川慎二(よしかわ・しんじ)は頭を下げた。 吉川慎二、29歳、身長175㎝。 爽やかな印象の男性である。 「吉川の妻の幸恵(さちえ)です。」 と、隣りにいた女性━━吉川幸恵(よしかわ・さちえ)も頭を下げた。 吉川幸恵、30歳、身長164㎝。 くっきりとした顔立ちの美しい女性である。 ━━幸恵の方が誕生日が早いだけで、二人は同じ年生まれである。 「桜木の妻の紀子です。」 紀子は吉川夫妻を見て、 「主人がお世話になりました。」 と頭を下げた。 「私達は旅行に行っていて、先程、戻って来まして……。」 吉川は申し訳なさそうに、 「お通夜に伺えずに申し訳ございません。」 と頭を下げた。 幸恵も頭を下げる。 「こちらこそ、せっかくのご旅行中でしたのに……。」 と、紀子は言った。 「せめてご挨拶だけでもと思いまして。」 と、吉川は言った。 「それは、わざわざご丁寧に。」 と紀子は吉川夫妻を見て、 「よろしければ。お上がり下さい。」 と言った。 吉川と幸恵は、目を合わせた。 「では、少しだけ失礼致します。」 と、吉川は頭を下げた。 ━━吉川達は、リビングに案内された。 リビングにいた由子と目が合う。 「桜木部長の部下の吉川です。」 と頭を下げた。 「妻の幸恵です。」 幸恵も頭を下げた。 「娘の由子です。」 と由子も頭を下げた。 「!?」 吉川は何かに気付いたように、 「もしかして……ケーキの?」 と、呟くように言った。
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