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真実
「お父さん……。」
由子は、呟くように言った。
「最初の年は、相手の方の都合だと思ってたんですが……。」
吉川は由子を見て、
「流石に5年も続くと……。」
と言った。
「ご、5年!?」
と、由子は驚きを隠せなかった。
「はい、先月も持って来て下さったんです。」
と、幸恵が答えた。
「なので、もしかしたら、お嬢様の為に用意されていたのかと……。」
と、吉川は言った。
「それは、私も知らなかったわ……。」
と、紀子も驚きを隠せない様子。
「あと、5年前くらいから、僕に頼み事をするようになったんです。」
と吉川は言った。
「頼み事ですか?」
由子が訊いた。
「はい、ネットで、桜木由子という名前のタレントがいるか調べて欲しい……。」
吉川は由子を見て、
「出演する、番組やCMとかも分かれば教えて欲しいと……。」
と言った。
━━吉川達が帰った後……。
「お父さん、私の事を嫌ってると思ってた。」
と、由子は呟くように言った。
「心配だっただけよ。」
と紀子は言った。
「心配?」
と、由子は訊いた。
「ええ、由子がタレントになりたいと言い出した頃、芸能人が大麻で逮捕される事件が続いてたから。」
と、紀子は答えた。
「そうだったんだ……。」
と由子は言った。
「お父さん、ある日の夜、父の仏壇に泣きながら話し掛けていたわ……。」
紀子は、思い出すように言った。
「おじいちゃんに?」
由子は首を傾げた。
━━ある日の夜。
紀子は、夜中に目が覚めた。
隣りの布団に勇作の姿はなかった。
(また、由子のビデオかしら?)
と、紀子は思っていた。
(?)
仏間の方から、泣き声のようなものが聞こえてきた。
気になった紀子は、そっと様子を見に言った。
━━仏間には、紀子の父の仏壇に、泣きながら話し掛けている勇作がいた。
「お義父さん……。
俺、お義父さんみたいな立派な人間じゃないから、由子に言ってやれなかったです。
お義父さんが、18歳も年の離れた俺と紀子との結婚を認めてくれた時みたいに、娘を信じてるから、娘の決めた道に口出しはしない。
娘が君と家族になりたいと決めたなら、その時から、君はもう、私の家族だ。
そんな、かっこいい事、言えませんでしたよ……。
ただただ娘が心配で、由子の気持ちもしっかり聞いてやれなかったです……。
本当は応援してやるべきなのに、出来ませんでした……。」
陰に隠れて聞いていた、紀子の頬を涙が伝った。
「お父さん……。」
紀子からの話を聞いた、由子の頬にも涙が伝った。
「お父さん、私の父の事を尊敬してくれていてね。」
と、紀子は言った。
「私、何も知らなかった……。」
由子は、呟くように言った。
<プルルルル>
紀子の携帯電話が鳴った。
「もしもし。」
紀子が電話に出る。
「え? そうだったんですか?」
紀子は驚いた様子で、
「それは知りませんでした……。
わざわざ有難うございます。」
と、通話相手に頭を下げた。
━━紀子は、電話を切った。
「何かあったの?」
由子は、不安そうに訊いた。
「お父さん、神社の石段から落ちたのが原因なんだけど……。」
紀子は由子を見て、
「どうも、お百度参りの帰りだったらしいの……。」
と言った。
「お百度参り?」
由子は首を傾げた。
「ええ、近所の奥さんが見かけたらしいんだけど……。」
紀子は少し間を置いて、
「娘のドラマが成功しますようにって、祈ってたみたい……。」
と言った。
「お父さん……。」
由子は、涙が止まらなかった。
吉川から、由子が今度、ドラマに出演する事が決まったと聞いていたのだろう……。
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