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私はバスの中で窓の外に映る景色を眺めていた。窓際に座る私の隣には陽菜がいて、外の景色を見ようと、私に覆い被さるように体を寄せてきていた。
「四方八方、木ばかりで全然景色見れないじゃん。これじゃ、どこら辺の高さまで登ってきてるのか分からなくない」
「だったらこっちに身体寄せてこないでよ。そんなに窓際がいいなら交換するから」
「いや、そこまではいいよ。わざとだし」
陽菜が悪戯な笑みを私に向けてくる。陽菜がちょっかいをかけてきて、私がそれに対応する。中学から私達の関係はこんな感じだ。
今日は、高校行事の一環として一年生全体で山登りに来ていた。行事の目的としてはクラスの親睦を深める意味合いがあるらしい。それがなぜ山登りなのかはよく理解出来ないけれど、普段の授業を受けるよりは遥かにましだった。
バスは登山口にある駐車場に向かっている途中だった。先程からうねうねとした峠道をゆっくりと走行している。登山客の車がそれなりに多いのか、渋滞が起きているため、少し進んでは止まるを繰り返していた。
隣で暇そうにしていた陽菜が、座席の下に置いてあるリュックサックをおもむろに漁りだす。中からお菓子のグミを一粒取り出すと食べ始めた。
「葵も食べる?」
陽菜の問いかけに対して欲しい旨を伝えると、差し出した手の上にグミを置いてくれた。口にするとグミの柔らかいイメージを覆す食感だった。
「かたっ! 何これ」
「ハードグミだよ。葵知んないの」
「いや、知ってるけどさ。それにしてもかたすぎでしょこれ」
「これ選んだの失敗だったかな。小腹満たせるように噛みごたえのあるハードグミにしたんだけど」
確かにこれだけ噛みごたえがあれば、満腹中枢を刺激してお腹を満たす効果は充分ありそうだ。そもそも顎が疲れるので食べる気を失くさせる。
袋にはまだ大量のグミが残っていた。陽菜はこれを食べ切れるのだろうか。
「これダイエットとかに向いてそうじゃない」
陽菜が質問してくるので、一応しっかりと考えた上で答える。
「グミ自体はそんな向いてはないと思うよ」
「なんで?」
「グミそのものがほぼほぼ砂糖みたいなもんだからね。カロリーはシュークリームとかケーキとかアイスクリームとかと比べると断然低いけど、糖質が高いから。まあ、このグミだったら一日に大量に食べないだろうから特に気にする必要はなさそうだけどね。まあ、糖質もカロリーも身体に必要なものだし。無理に食事制限して痩せても、リバウンドしたら意味ないから、運動することが重要だと思うけど」
陽菜は「そうなんだ。カロリー低ければ良いと思ってた」と言葉を漏らしていた。ダイエットに対しては、取り敢えず低カロリーだという認識だったのだろう。でも、陽菜がダイエットを口にするのは珍しい。興味があるのかと思い、確認も兼ねて、私は陽菜に聞いてみる。
「陽菜ってダイエットとかに興味あるわけ?」
「全然ないけど。基本何食べても太るとかないし。ただ、そう思ったから言っただけ」
「いいねそれ。羨ましいわ」
「葵って太りやすい体質だったっけ?」
「私は体型維持の為に気にしてるもん。食べ過ぎないようには考えてる」
陽菜とお喋りしている間にバスは登山口の駐車場まで到着していた。バスが止まると、私達はリュックサックを持って地面へと降り立った。
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