3 登山

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 先生達が広いスペースの一ヶ所に生徒達を集めると、それをクラスごとに分けていく。生徒達は事前に決められていた五人一組の班に分かれて整列した。  前に教室で班を決める時、陽菜は真っ先に私を誘ってくれた。陽菜の誘いを快諾(かいだく)すると陽菜は他の三人組の女子グループを誘って、すぐに班決めは終了した。  陽菜にはこういう時、いつも助けられていると感じる。陽菜の行動力には本当に頭が下がる思いだ。  担任の浅見先生が班ごとに使う所持品を配りに来ていた。リーダーを任せられている陽菜は、シンプルな腕時計を預かっていた。 「この班のカメラ係は?」  浅見先生の言葉に対して、私は返事をして浅見先生の前まで歩いていく。 「宮下さんね。いい写真いっぱい撮ってきてね。でも、歩きながら写真撮るのは駄目よ。危ないから」  浅見先生からストラップの付いたデジタルカメラを預かる。このカメラで撮った写真は、クラスのアルバム用に使う写真らしい。アルバムに貼られる可能性がある写真を撮るのは、結構大事な役割だと私には思えた。班でこの役割を引き受ける事になったのは正直言って気が重い。  一枚目の写真として手始めに登山口で集合写真を撮る事にした。カメラは別の班の人に渡して撮影して貰う。カメラを受け取るとみんなに写真写りを確認してもらってから元の集合場所に戻った。  山登りはクラスごとに団体行動を要求される。一足先に行こうとして、走って登ろうとした男子生徒が先生に注意されて列に戻っていった。不貞腐れた顔をしていたのは同じ図書委員会の加賀君だった。本当に元気というか何というか。性格が絶対に正反対だと思うので、一緒にやっていけるのか少しばかり不安を感じた。  登り始めは丸太階段がかなり長く続いていた。普段登ることがない丸太階段は一つ一つの幅が広く、脚を大きく前に出さないといけないため結構疲れる。  丸太階段を登っている間、周りの木々が壁の様に階段の両脇に(そび)え立っていた。木々の(こずえ)の間から木漏れ日が差し込んでくると、ほんのりとした暖かみを感じる。木の幹の模様は人の血管の様に張り巡らされており、この木々たちが生きているという事実をありありと感じさせた。  丸太階段が終わると今度は足場が岩と土で出来た人工的ではない足場になっていく。周りの囲んでいた木々が無くなり視界が開けると、私達のバスが置いてある駐車場がだいぶ下に見えた。これでまだ半分くらいだろうか。身体を動かすのが少しきつく感じた。きっと中学の部活動が終了してから(ろく)に体を動かしていないせいだろう。ちゃんと運動しないといけないなこれは。  岩の上を歩くとゴツゴツとした感触が足裏に伝わってくる。なるべく岩の上を避けて歩く様にしていたが、登るために少し先の(とが)った岩に足をかけた。岩にかけた足に力を込めると、ずるっと足を滑らせてしまった。 「おっと!」  バランスを崩したが倒れるまでには至らなかった。大きな声を出したため班のメンバーが一斉に私の方を振り向く。陽菜が(あわ)てた様子で声をかけてきた。 「大丈夫? 葵」 「全然問題ないよ。ちょっとバランス崩しただけ」 「気をつけてよね」  同じ班の子も心配したのか声をかけられた。私はそれに対して「大丈夫だよ」と答えながら山を登っていく。同じ班の子達にも気を遣わせてしまって申し訳なく思った。  山の頂上に着くと緑一色の平野を一望できる。周りの土地が低いので視界を遮るものが一切無い。そのため開放感が抜群にあった。空気を吸い込むと新鮮な空気が肺に行き渡り身体を巡っていく感覚がある。  あまり頂上に長居はできないため、少し降りて撮影出来そうな場所を探す。山の景色を背景にみんなで交替しながら写真を撮っていた。    
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