1 私は人を愛せない

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 人間は二種類のタイプに分かれるという。恋愛ができる人と恋愛ができない人。どうやら私は後者らしい。  なんで世の中にはラブソングがこんなに溢れているんだろうか。漫画やドラマや映画だって恋愛を主軸にしたものが多い。私は恋愛ソングも聴くし、少女漫画も恋愛ドラマもフィクションとして面白いとは感じる。  でも、作品や歌の中で繰り広げられる恋愛劇に感情移入することは出来なかった。なぜなら私には、一目惚れも、恋のドキドキも、失恋の辛さも分からないからだ。  人を好きになった事がない私には、そもそも関係のない話なんだ。きっと、こんなことを言えば、周りは私を変人扱いするだろう。  頭の中でそんな考え事をしていると、一階にいる母の声が耳に届いてきた。 「(あおい)、夕飯できたから下りてらっしゃい」 「わかった。すぐ行くから」  返事をすると、読んでいた少女漫画を閉じて机の上に置く。友達から借りた少女漫画の内容は、王道の男女の恋愛を描いた青春ストーリーだった。  一階に下りてテーブルの椅子に座り、母親が料理を並べ終えるのを待つ。最後の料理を運んできて、母が椅子に座ると、二人で食事の挨拶をして料理を口に入れる。 「学校の準備は大丈夫なの?」 「もうバックの中に全部入れて、一通り確認したから大丈夫だよ」  入学式を明日に控えているためか、母が心配そうな声で聞いてくる。心配してくる母に対して、私はぶっきらぼうに答えた。母は余程心配なのか、確認のため、しつこく言葉を私にかけてくる。 「制服のブレザーは着て確認したの?」 「ブレザーは一週間前に着て確認したじゃん。勝手に伸びたり縮んだりしないよ」 「分からないじゃない。太ったら入らなくなるかも」 「失礼な」    しかめっ面を母に向けると「ごめん、ごめん」と言いながら両手を合わせて笑っていた。私の母親は頻繁(ひんぱん)にこういう冗談を言ってくる。からかいたがりの母親なのだ。  食事を摂り終えると、お皿をキッチンに持っていく。夕食終わりの皿洗いは、私の仕事として日課になっていた。  皿洗いを終えてお風呂に入り、二階にある自分の部屋に戻る。ハンガーに吊るされていた紺色のブレザーに目がいった。  母の言葉が若干気になって自分のお腹周りをまじまじと見つめる。試しに着てみるかと思い、ハンガーに引っ掛けられている制服を着てみた。案の定、全く問題はなし。さすがに太ってはいないと安堵(あんど)する。  スタンドミラーに映る自分の姿を見つめていると心がざわついた。中学生の時はセーラー服だったため、ブレザーの制服姿にはまだ目が慣れていないせいだろう。明日から高校生になるのかと思うと不思議な気分だった。どうやらまだ、中学生気分が抜けていないらしい。  高校と中学でどれ程違うものなのか。まずは早く学校生活に慣れて無難に過ごしていきたい。とりあえずは今日、早く寝よう。時計を見ると、時計の針は八時三十分を指していた。  寝るにはまだ早すぎるので、イヤフォンをつけて音楽を聴きながら過ごす。時計の針が十時を回ったところで、私はベッドに横になると、眠りについたのだった。    
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