2 入学

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 家から出ると、住宅街の細い路地を三分程歩く。住宅街を抜けると四車線の広い道路にぶつかる。この四車線道路に並行して歩いていけば、目的地の学校だ。  歩道と車道の間には黒い防護柵があり、歩道側には等間隔で、桜の街路樹が埋められていた。桜の花びらは綺麗だが、まだ満開とは言えなかった。よく見ると蕾の状態がちらほらと目につく。良くて五分咲きといったところだろうか。   歩道を歩いていると、私の左横を二人の男子学生が、自転車で並走しながら通り抜けていく。制服を見ると、うちの学校の生徒だということがわかった。  通り過ぎた自転車を目で追っていると、後方から自転車のベルの音が二度鳴らされた。一旦足を止めて振り返ると、馴染みのある人物が近づいてくる。私の隣に来ると自転車から降りて、歩きに切り替えた。 「おはよう、葵」 「陽菜(ひな)、おはよう」  中学時代からの友人である石川陽菜が喋りかけてくる。陽菜は中性的な顔をしていて、可愛さと格好良さを両方持ち合わせていた。陽菜の周りには男女問わず人が集まるから凄い。陽菜には人を惹きつける魅力があると、常々私は感じていた。 「陽菜、今日は結構早いね。いつも時間ギリギリに登校してくるからもっと遅いかと思ってた」 「流石に入学式だもん。私だって時間ギリギリで教室に入って行って、みんなの注目浴びるとか勘弁だよ」 「そうなると思ったんだけどなー」  私の軽い冗談に対して陽菜は、右手でお釣りを受け取るような手の形を作り、私に近づいてくる。 「何その手は?」 「百円」 「なんで私がお金払うのよ」 「予想外したじゃん。後、私の偏見に対しての罰金」 「はいはい」  私はブレザーのポケットにあった一円玉を取り出して、陽菜の手に乗せる。陽菜はそれを見ると、不服そうな顔をしながらも一円玉を受け取っていた。  くだらないやり取りをしながら二人で歩いていると、いつの間にか学校の前まで来ていた。
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