2 入学

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 階段を上り三階に到着すると、そのまま一番端にある一組の教室まで向かう。昇降口からの距離だとクラス教室の中で一番遠い場所にあった。どうやら学年が高くなるほど、昇降口から教室までの距離が近くなるらしい。 「結構遠いなー。ギリギリ攻めすぎると遅刻になるかも」  その言葉を聞いて、出席確認にギリギリで来る陽菜の様子が頭に浮かんだ。来週には現実になりそうな気がする。  教室の前まで着くと陽菜が引き戸を開ける。教室内には生徒が既に六割ほど座っていた。陽菜はそのまま窓際の前の席に、私は廊下側の後ろの席に座った。  机の上には入学のしおりが置かれている。辺りを見回すとしおりを読んでいる生徒や窓の外を眺めている生徒、机に顔を伏せている生徒がいた。  やることがないため、とりあえずしおりの中身を確認してみる。今日の行事予定が記されていた。どうやら午前中には終わるらしい。教室内は喋ってはいけないルールでもあるのかと思うくらい、しんと静まり返っていた。  始業のチャイムが鳴ると、前方の扉が開けられた。すらりとした体格の女性が教室内に入ってくる。綺麗な栗色をしたロングヘアの女性は、教師にしてはかなり若い分類に入るだろう。清楚な大人の女性の雰囲気を醸し出していた。 「皆さんおはようございます」  先生の声に反応してクラス全体で挨拶を返す。緊張気味の生徒が多いせいか、全体の声は人数にしてはとても小さく感じた。 「私が今日からこの一組の担任になります。浅見恵里です。教科担当は国語になります。授業でも頻繁(ひんぱん)に会うことになると思いますので、これからよろしくお願いします」  見た目の柔らかな印象とは裏腹に声はハキハキとしている。根拠はないが、第一印象としてかなり良い先生なのではと、期待感をもたせてくれる先生だ。 「この後すぐに入学式になるので体育館に向かいます。詳しい自己紹介は教室に戻ってきた後行いますからね。先生は皆さんのことをちゃんと知りたいので、みんなも話す内容を考えておいてください」  こういうのって、やっぱりやらないといけないのか。自己紹介の時間は、中学の入学式でもあったけれど、私は物凄く苦手だった。わざわざ、クラス全体に自分の趣味とかを言う必要性を感じない。  体育館で行われた入学式は滞りなく執り行われた。中学時代と違ったことと言えば、校長の話がかなり短かかったということだ。今日の出来事の中でもっとも嬉しい事かもしれない。  教室に戻ってくると、先生が詳しく自分の事を私達に紹介してくれた。休日は旅行に行くことが多いこと。料理が好きなこと。ゲームをよくすること。一通り言い終わると質問タイムになり、直ぐ様手を上げる生徒が出てくる。 「先生いくつ?」  元気な様子で男子生徒の一人が質問をした。浅見先生は「二十五歳です」と照れ笑いをしながら教えてくれた。その様子は可愛らしく、男女問わず人気のある先生になりそうな気配を感じさせる。  生徒の自己紹介になると皆、趣味の話題や中学でしていた部活について語っていた。私も緊張しながら、例に漏れず終始無難な事を言ってやり過ごす。  学校帰りに陽菜と一緒に歩いていると、陽菜が笑顔を向けながら先生の話題を振ってくる。 「担任の浅見先生。結構当たりじゃない」 「そうだねー。悪い印象は無かったかな」 「間違いなく一年の先生の中じゃ一番良いよ」 「まあ、確かにそうだね。美人だし」 「本当にそうだよね。めっちゃ綺麗な人だった」  その日は先生の話で持ちきりのまま陽菜と別れた。高校生活一日目は、色々と幸先の良いスタートに感じられた。  
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