2 入学

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 入学から一週間が経つと五分咲きだった沿道の桜もほぼ満開になっている。私自身この道を昔から知っているが、この時期になると景観の美しさに心を惹かれた。  沿道の桜を見るためか、平日の朝の早い時間帯にもかかわらず、大勢の人が桜を見ている。年齢層はお年寄りの人が多いが、ちらほら三十代や四十代の人の姿も見かけられた。  その中に一組の老夫婦が手を繋いで歩いている姿を見つける。互いに笑顔を向けながら桜の鑑賞を楽しんでいるようだ。その様子はまるで付き合いたてのカップルのような初々しさを含んでいた。  学校の授業では、週に一回しかないロングホームルームが行われていた。今回の内容は委員会活動の役割を決定することである。  担任の浅見先生が黒板に委員会の名前を書き出していく。 「じゃあ順番に委員会の名前を言っていくので入りたいところに挙手してください。希望者が多い場合はジャンケンで決めるように」  黒板に書かれた文字をざっと見る。特にやりたいものはないが、やりたくないものはある。そこの担当にはならないよう注意しなくてはいけない。 「図書委員会やりたい人」  周りを見渡すと、手を上げているのは入学式の時、先生に年齢を聞いていた男子生徒だけだった。私も図書委員ならいいかと思い、すかさず手を上げる。 「図書委員会は加賀君と宮下さんになります」  浅見先生は加賀君を視線を向けた後、私に視線を向けてきた。先生と目が合わさる。 「ちなみに図書委員は私が顧問になるのでよろしくね。加賀君と宮下さん」  浅見先生は笑顔を向けながら話しかけてくる。図書委員会の担当って浅見先生なのか。これっていい事なのかな。私はなぜか、一抹の不安を感じていた。  図書委員会については、委員会決めの後にわかったことがある。クラスメイトの女子生徒から教えてもらった情報によると、どうやら図書委員会の活動はかなり面倒な部類に入るらしい。つまり、皆が手を上げなかったのはそれなりの理由があったということだ。  事前に知っていればと、若干ブルーな気持ちになりかける。ただもっと最悪な選択肢があったと思えば、気持ちは楽になる。本は時々読むし、悪くはないかと思うしかなかった。  
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