はじまり

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 キンキンに冷えたビールを天宮が一気に煽る。程よい騒々しさの、半個室のある居酒屋。ご飯が豊富で値段が手頃なところが、二人のお気に入りだ。 「おっいしー!」  天宮のジョッキの中身は半分ほどなくなっている。お酒が強くて羨ましい。絢音も飲めないわけではないが、ほどほどにしておかないと、すぐに眠くなってしまう。 「それで、今日はどうしたの?」  天宮が急に飲み会に誘ってくるときは、たいてい盛大な愚痴があるときだ。 「きいてよ! あの客先のメガネ、めっちゃ腹立つの!」 「ああ、なんだっけ、話は面白いけれど現実味がない、とか言われたんだっけ」  梅酒のソーダ割をちびちびと飲みながら、天宮が言われたという言葉を繰り返す。 「ムーカーツークー!」  記憶を刺激してしまったらしい。 「だから! 現実的にしてやったのよ! な、の、にー!」  ドン! と天宮が机を叩く。その思い出した言葉を流し込むように、ビールを大きく煽る。 「今度は、現実的だけれど将来性が見えない、とか言われたのよー! だから! ロードマップ持ってったんだろうが! お前たちの仕事をこれでもかってほどこっちは考えとんじゃあ!」  お客様の要件に合わせて、システムを構築する。絢音たちの仕事は一言でいうと、そこに集約する。けれど、実はシステムを使ってお客様の仕事をどのように大きくしていくか、どのようにビジネスモデルに仕立て上げていくかも一緒に考えていくコンサル的な面も大いにある仕事だ。  天宮は特にその部分、将来性を見据えてシステム要件をまとめるのがうまいのだが、今回は少し難しい客にあたったらしい。  ビジネスのロードマップ、つまり将来的なステップアップについて説明したら現実味がないと言われ、現実的な運用フローを提示したら、今度は未来のビジョンが見えないと言われたらしい。 「はいはい。ちょっと声落としてね。でもそれってもっともな指摘だよね」  目的と時間軸が異なるものなのだから、それはギャップも出るだろう。  天宮の愚痴を聞きながら、お通しのオクラと山芋の甘酢和えを口にする。  ヤバイ、美味しい。今度、家でもやってみよう。 「最初のロードマップと運用フローにギャップがあるのはわかってたんだけど。それを、あいつはその場でギャップがわかるように足りない機能やら俯瞰図やらを白板に書きやがったのよ。うちの、会議室の、ホワイトボードに!」  自分のテリトリーでそれをされたことがかなりの屈辱だったのだろう。だが、埋められる情報なら、天宮だったら埋めた資料を持っていく。 「時間なかったの?」 「別の遅延してた案件に突っ込まれた」  天宮が机に突っ伏す。 「手を抜いたわけじゃないじゃない」 「でも、もっとやれたわけ。それが、あいつはわかってて、それを目の前で見せつけられたの」  それは悔しいだろう。相手というよりも自分に対して。
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