第4話

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「どうして」  碧衣が呟くと紺野はハッと吐き捨てる。 「この前アサギから聞いたんだよ。ショックだった」  表情を歪める彼に何と言えばいいのか分からない。それはウソだと弁明すればいいのか。自分はそんなことをしていないと。でも、その気力が湧がなかった。  どうして誰も彼も自分をそういう目で見るのだろう。母も叔母もアサギも紺野も……そして藍も。 「じゃあ、もういいじゃないですか」  もう疲れた。良い子でいることも、うがった見方をされるたびに申し開きをすることも。  もう、いい。 「私はそういう、フシダラな女だったんですよ。幻滅したんでしょ? だったら、もうそれでいいじゃないですか」 「……何だよそれ」  碧衣の物言いに彼は気色ばむ。 「俺は! そんな君でも受け入れようとしたんだ!」  君のことが好きだから。  その言葉に碧衣は鼻白む。好きだと言うのなら、どうして信じてくれなかったのか。せめて事実を碧衣に確かめるくらいはできなかったのか。  彼の中で、碧衣は『そういうこと』をしそうな娘だったのだ。結局、紺野も碧衣自身を見ていたわけではない。 「受け入れてくれなくていいです。もう帰っていいですか?」  紺野の脇を通り過ぎようとすると、腕をつかまれた。かなり強い力だったので、痛みに声がもれる。  碧衣の様子にはお構いなしで紺野は、ふざけるなッと声を荒げた。 「お前みたいな奴を好きになるのなんて、他にいるわけないだろ!」  乾いた音が響く。  気がつくと紺野の顔を叩いていた。我にかえった碧衣は後じさる。咽喉(のど)につかえて言葉が出ない。  平手打ちされた紺野も驚いた顔でしばらく黙っている。叩いた時に爪で引っ掻いてしまったのだろう、頬から血がつうっと流れた。  彼は頬を伝う血をぬぐう。  手を見て濡らしていたものが血だと分かると、カッと目を見開いた。 「こ、こんのさん」  紺野はゆっくりとした動作でこちらを向く。彼の表情から尋常でないものを感じ逃げようとするが、依然として腕をつかまれているのでそれは叶わなかった。  彼女が振りほどくためもがくと、腕を引っ張られ地面に投げ倒される。  激痛に低くうめいていると、紺野が馬乗りになってきた。  何をしようとしているのか察して、がむしゃらに暴れる。 「いやよ、やめて! 紺野さん!」  しかし、制止の声には応じず、紺野は碧衣の服に手をかける。  碧衣の悲鳴が河川敷に虚しく木霊した。
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