花火大会

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今日、俺達は旅館に来ている。 そう。 旅館と言えば、美味しい料理はもちろん。 なんと言っても温泉だろう。 今、俺と蒼ちゃんは、脱衣場の端でこそこそと衣類を脱いでいる。 福引で当たった旅館に、個室の温泉などある訳もなく…。 俺達は大浴場へとやって来た。 田中さんはもちろん、兄さんや荻野先輩。 そして元とはいえサッカー部だった章三は、鍛え上げられた綺麗な筋肉美の裸体を晒している。 それに比べ…俺と蒼ちゃんは華奢な身体付きで残念な裸体を晒すのが恥ずかしい。 後で行くと言い張ったが、4人対2人で負けてしまったのだ。 「身体を洗ってさっさと湯船に入ろう」 って、蒼ちゃんと相談して大浴場に入る。 すると、男なのに妙に色っぽい蒼ちゃんに、大浴場の男の人の視線が集まる。 「ビ…ビった〜。女の人かと思った」 誰かの声が響くと、田中さんが咳払いして睨んでいる。 蒼ちゃんは自分の事だなんて思っていないらいしく、隣で髪の毛を洗い始めた。 嫌さ…、幼馴染みですが…ドキドキしちゃうよね。蒼ちゃんの身体、妙に色気があるというかなんというか…。 思わずガン見してたらしく 「何?なんか変?」 って、蒼ちゃんに聞かれてしまった。 「あ…いや。蒼ちゃん、色っぽいよね」 思わず口にすると、蒼ちゃんが真っ赤になって 「そんな事ないよ。普通だよ、普通」 とおっしゃてますが、周りの方々がチラチラと蒼ちゃんの裸を見てますよ。 白くて滑らかな肌は、思わず触れてみたくなってしまう。 俺も雑念を払うべく髪の毛を洗って身体を洗うと、先に入っていた4人に近付く。 が、兄さんに腕を掴まれて、俺と蒼ちゃんは田中さんと兄さんの背中の後ろに押しやられてしまった。 「だから、部屋風呂にしとけって言ったんだよ」 「でも、それじゃお二人が可愛そうじゃないですか!」 って、前で田中さんと兄さんが言い争ってる。 俺と蒼ちゃんは顔を見合わせて笑うと、窓の外に誰も居ない露天風呂が見えた。 「あ!露天風呂があるよ!」 そう言って俺が立ち上がった瞬間、兄さんも立ち上がって 「葵!大人しく入ってろ!」 って言われてしまった。 俺が頬を膨らませていると 「あのさ…、そんな風にする方がよっぽど変だよ」 と、章三が呆れていた。 「大体さ、二人がやましい事を考えてるから、隠したくなるんじゃないの?」 章三はそう言うと 「葵、露天風呂行くか?」 って誘って来た。 「うん!行く!」 立ち上がって章三と蒼ちゃんの3人で露天風呂へ移動すると、外の少しだけ涼しい空気にホッとする。 「そういえば、3人で一緒に温泉なんて初めてだよね」 微笑んで言う蒼ちゃんに 「あ!本当だ」 って答えると 「不思議だよな。こうしてお互い、それぞれの恋人連れて旅行なんてさ」 そう呟いて章三が苦笑いした。 「あれ?そう言えば荻野先輩は?」 思い出してキョロキョロ探すと 「セクハラが激しいから、叩き出した」 と、章三が答えた。 「セクハラって…」 思わず呟くと 「あり得ないだろう?みんな居るのに、あいつ湯船の中で尻触って来るんだぜ!」 怒っている章三に、蒼ちゃんが苦笑いを返す。 「でも、全然知らなかったよ。お前と荻野先輩が恋人だったなんて」 思わず呟くと 「まぁな…。俺もまさか、葵を抱きたいと思ってたけど、抱かれる側になるとは思わなかったよ」 そう言われて、思わず赤面する。 「お前!」 そう呟くと 「僕も…あおちゃんと章三なら納得いくけど…。まさかの荻野で、最初はパニックになったよ」 って苦笑いしていた。 「でも、こうして3人で温泉が楽しめて、来て良かったよね」 蒼ちゃんがそう言った瞬間 「お前ら、3人でずるいぞ!」 って、荻野先輩が乱入して来た。 「お前!何こっちに来てるんだよ!」 怒っている章三に 「安心しろ。俺はお前にしか勃たない」 って、真顔で言っている。 俺と蒼ちゃんが唖然としていると 「こんな生っちょろい身体の何処が良いんだか」 と言って、荻野先輩が溜息を吐いた。 「お前な…人の気にしている事を…」 蒼ちゃんがワナワナ怒っていると 「お前らのナイトは、露天風呂が見えないように窓辺を占拠しているぞ」 って、窓辺に座って話をしている田中さんと兄さんを指さした。 「あいつらも、こっちに来れば良いのに…」 呆れた顔をした荻野先輩を見て、思わず驚いた。 「荻野先輩って、綺麗な顔をしてるんですね」 濡れた金色の髪の毛と、灰色の瞳。 ハーフ独特の彫りの深い綺麗な顔立ちに、思わず見惚れてしまった。 今まで俺を毛嫌いしているのが分かっていたから、マジマジと顔を見たのは初めてだった。
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