花火大会

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すると荻野先輩は驚いた顔をして 「なんだよ、いきなり」 って、照れている。 「章三って、面食いなんですよ。今まで付き合った彼女、みんな綺麗な子だったんですよね。なるほど…。こんなに綺麗な顔立ちしてたら、男でも荻野先輩に惹かれちゃうかもしれないですね」 うんうんって頷いて呟くと 「へぇ…。今まで、彼女なんか居たんだ」 地を這うような声に、俺はしまった!って思った。章三が『葵のバカ!』って、目で訴えていて、真っ青になる。 すると 「荻野、お前だって人の事言えないだろう?散々、女の子を取っ替え引っ替えしてたんだから」 って、蒼ちゃんがナイスフォローしてくれた。 「それに、付き合っていたと言っても、章三は歴代彼女に指一本触れてないよ。だから振られてたんだから」 蒼ちゃんの言葉に、俺と荻野先輩が章三の顔を思わず見てしまった。 「うるさいな!もうこの話は終わり!」 って、真っ赤な顔をして章三が叫ぶと 「そろそろ出ませんか?」 と、田中さんが声を掛けて来た。 「陽一さんも、こっちに来ませんか?」 微笑んで蒼ちゃんが呼ぶと、先輩と田中さんもこちらやって来た。 「何やら楽しそうでしたけど」 自然に蒼ちゃんの隣に座る田中さんに 「恋バナしてました」 って、蒼ちゃんがクスクス笑って答える。 「楽しそうですね、誰のですか?」 と聞かれて、俺達は顔を見合わせて 「秘密です」 そう答えた。 「それは残念ですね」 楽しそうに笑う蒼ちゃんを、優しい眼差しで見つめる田中さん。 本当に愛し合っているんだな〜と思って、微笑ましく見ていると 「そう言えば秋月。お前ら、まだキス止まりなんだろう?良く平気だな?」 って、触れちゃいけない話題に荻野先輩が触れて来た。 その言葉を聞いた瞬間、俺と先輩は背中を向けてしまう。 「もしかしてお前、勃ってたりしてんじゃねぇの?」 さっきのお返しとばかりに、荻野先輩が兄さんに絡んでいる。 「寄るな!触るな!近付くな!」 兄さんはそう叫ぶと 「先に出る!」 って、露天風呂から上がってしまった。 「やれやれ…。翔さんは、相変わらず子供ですね」 呆れたように田中さんが呟くと 「葵さんも、大変ですね」 って、頭を撫でられた。 「まぁ、でも。それも今夜までだろうし」 と、荻野先輩に言われて、俺は疑問の視線を投げる。 「え?」 「え?」 疑問の視線を投げる俺に、荻野先輩が驚いた顔をして俺を見る。 「今まで家族旅行とか行ったけど、何もないですよ」 そう答えた俺に 「あいつ…修行僧か?」 と、荻野先輩が呟いた。 「きっと、大切過ぎて手が出せないんですよ。あぁ見えて、純粋な方ですから」 田中さんはそう言って小さく微笑んだ。 そっか…。 蒼ちゃんも章三も、とっくにそういう関係になっているんだ。 何処か他人事で、何処か上の空で話を聞いていた。
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