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こんなに誰かを好きになる事はないんじゃないかと、そう思うほど大好きな人。
一緒に暮らし始めて、毎日、好きが増えて行く。
唇がゆっくりと離れると、兄さんはゆっくりと立ち上がり
「彗と舞衣が寝てる間に、夕飯の支度をしようか」
そう言って、俺に手を差し出した。
俺は笑顔で頷き、兄さんの手を握り返す。
母さんが妊娠してから、俺と兄さんで料理をするようになった。
最初は包丁を持つ度に心配だった兄さんも、今や手慣れた様子で野菜や肉を切っている。
今日は兄さんが好きな肉じゃが。
お味噌汁を煮干し出汁で取り、一緒に一番だしも取って肉じゃがの準備をする。
兄さんは
「折角、一番だしを取ったなら、茶碗蒸しでも作るか…」
って呟いて、だし汁が冷めるまで銀杏の殻を剥いて、鶏肉、椎茸を切って茶碗蒸しの器に入れている。
「あ!カニカマがある」
って、嬉しそうにカニカマまで切って入れている姿は、一年前には想像出来なかったな〜。
卵の裏ごしを丁寧に3回もやって、卵液と冷めただし汁を合わせて裏ごす。
俺は肉じゃがを作りながら、キッチンで楽しそうに料理する兄さんを微笑んで見つめていた。
(俺、本当に良い人を捕まえたんじゃないだろうか?)
と、兄さんを見つめて実感していた。
オーブンレンジの給水タンクに水を入れ、兄さんがレンジに茶碗蒸しの器を並べる。
あとは、茶碗蒸しモードにセットして終了。
自分の料理が終わると、俺の隣に並んで洗い物を始める。
まぁ、俺も洗いながら料理してるから、そんなに洗い物は残ってはいないんだけど。
「此処が終わったら、テーブルセッティングしとくね」
そう言われて、思わず苦笑いしてしまった。
田中さんから聞かされていた兄さんは、家の事を一切しない人だった。
でも、俺達家族と暮らし始めて、料理を手伝ってくれたり、掃除や洗濯も手伝ってくれる。
さすがに、洗濯機の使い方を知らなかったのには驚いたけど…。
一年で見違えるように家庭的になった兄さん。
時々、無理してないかな?って心配になる。
でも、顔を見ていると楽しそうだから…大丈夫なんだろうって思っている。
料理が揃い始めた頃、父さんが帰宅した。
「ただいま。今日は肉じゃがか」
嬉しそうに微笑む父さんに
「兄さんの茶碗蒸しもありますよ」
って答えると
「翔が?…お前、田中が見たら泣いて喜ぶぞ。今度、あいつにも作ってやれ」
と、笑いながら兄さんに言って頭を撫でた。
最近、彗と舞衣が産まれてからかな?
兄さんと父さんのわだかまりが、少しだけ溶けたように思う。
父さんはそっとベビーベッドに近付くと
「良く寝ているな」
って微笑んだ。
思わず二人の頭を撫でようとした父さんの手を、兄さんが慌てて掴み
「親父、手、洗ってからにしろ!」
って、怒ってる。
「全く…。母さんより、翔が一番うるさいな」
と、呆れた顔をして自分の部屋へと歩き出した。
暫くして、ほんの何時間か寝ただけで、母さんが顔色が良くなってキッチンに現れた。
「もう!私の息子達ったら、本当に最高!ご飯まで作っててくれるなんて!」
って、母さんが俺と兄さんに抱き着いた。
食事を4人で食べて、起きた彗と舞衣のオムツを替えたり、ミルクを飲ませたり。
家族が6人になって、俺達は本当の家族になっていた。それは本当に、物凄く幸せな毎日を過ごしていた。
…でも、実は恋人としての俺と兄さんの関係はあまり進展がなくて、少しだけ寂しい気持ちになっていたんだ。
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