突然ですが、兄貴になりました

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「え!旅行?」 それは、彗と舞衣の出産祝いに遊びに来た蒼ちゃん達からのお誘いだった。 「実は幸さんから、福引で当たった旅行券を貰ったんだ」 そう言うと、パンフレットを俺達に見せてくれた。 「家族で!仲間で!旅行に行こう」 と書かれたパンフレットだった。 彗を抱っこした田中さんが 「2泊3日ですし、いかがですか?」 って言いながら、目尻を下げている。 「こうしていると、翔さんが赤ちゃんだった頃を思い出します。天使のように可愛らしくて…」 親バカならぬ…兄さんバカの田中さんに、蒼ちゃんがムッとしていたが 「舞衣ちゃんは、あおちゃんが赤ちゃんの頃にそっくりだよ。将来は美人さんだね~」 って言いながら、舞衣の頬にキスをした。 「お前!うちの舞衣に何しやがる!」 兄さんが、慌てて舞衣を蒼ちゃんから奪い返した。 「可愛いそうに…。蒼介なんかに、キスされて…」 兄さんが舞衣の頬を柔らかいタオルで拭いている。 「ちょっと…!人をバイ菌みたいに扱うなよ!」 蒼ちゃんが怒り出すと 「はぁ?大体、葵がお前にキスされまくってたっていうだけで、俺は腸が煮えくり返ってるんだよ!」 って兄さんが逆ギレしている。 「お前、本当にケツの穴小さいな」 「うるさい!お前に言われたくない!」 言い争う2人に、舞衣が泣き出した。 「もう…二人共、何してんだよ!」 怒って兄さんから舞衣を奪うと、2人はシュンとした顔をして 「ごめん」 って呟いた。 一方、田中さんに抱っこされている彗は、気持ち良さそうにスヤスヤ眠っている。 「さすが田中さん。慣れてますね」 尊敬の眼差しを向けると 「翔さんが赤ちゃんの時に比べたら、彗くんは大人しいですよ」 って微笑んだ。 俺の腕で泣いていた舞衣が大人しくなると、田中さんはそっと舞衣の頬に触れて 「不思議ですよね。こんなに小さな子が、成長して翔さんや葵さんのようになるなんて…」 そう呟いて微笑んだ。 小さな小さな命を見守る瞳は、誰もが優しくなる。 俺と田中さんが微笑んでいると、突然、俺の身体を兄さんが背後から抱き寄せた。 そして田中さんの背後には、蒼ちゃんが…。 「何、2人だけの空気を出してるの?」 って、蒼ちゃんが目を座らせている。 「葵は悪くない!蒼介、田中をもっとそっちに連れて行け!」 と、「しっ、しっ!」って、追っ払っている。 俺と田中さんが顔を見合わせて溜息を吐いていると、母さんが顔を出した。 「舞衣、泣いてなかった?」 俺達がいる間、部屋で寝てるように言ったんだけど、さすが母親。 泣き声を聴いて、起きて来たらしい。 「大丈夫だよ。もう、眠ってる」 母さんに舞衣の寝顔を見せると、母さんはホッとした顔で微笑み 「みんな、ありがとうね。本当に助かるわ」 って、母さんが蒼ちゃんと田中さんにもお礼を言っている。 「たくさんの人に可愛がられて、本当に幸せね~」 母さんが幸せそうに微笑んで、彗と舞衣の頭を撫でる。 「お兄ちゃんとあおちゃんが家の事を手伝ってくれて、本当に助かってるの」 母さんが2人に話すと 「え!翔さんが家事を手伝ってるんですか?」 って、田中さんがめちゃくちゃ驚いてる。 「そうよ!この間、茶碗蒸し作ってくれたの」 母さんがそう言うと 「あれは、葵が1番だしを作ってくれたから…」 と、慌ててる。 「翔さんが…茶碗蒸し?あの、翔さんが?」 呆然としている田中さんに、俺が苦笑いしていると 「あら?このパンフレット…」 って、母さんが蒼ちゃん達が持って来たパンフレットを手にした。 「あ、それ。田中さんのお友達から頂いたので、あおちゃん達を誘いに来たんです」 蒼ちゃんが言うと 「でも、彗と舞衣の事があるので、俺は遠慮しようと思っています」 って、兄さんが言い出した。 「え!」 俺、蒼ちゃん、田中さんが声を上げると、母さんは小さく微笑んで 「お兄ちゃん、それはダメよ。遊ぶ時は遊ぶ。手伝う時は手伝う。何事も、メリハリが大事なの。」 そう言うと 「行ってきなさい。3日間、2人が居なくても大丈夫。お父さんにも、お休みとってもらうから」って微笑んだ。 そしてこっそり 「あおちゃんの相手もしてあげないと、嫌われちゃうわよ」 って、耳打ちしているのが聞こえてしまった。 兄さんは慌てて俺の顔を見ると 「すみません。じゃあ、甘えさせてもらいます」 そう言って、苦笑いを浮かべた。 こうして、俺達は6人で旅行に行く事になった。
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