突然ですが、兄貴になりました

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我儘を言ってるのは分かってる。 兄さんは兄貴としては完璧で、文句の付け所が無い。 でも、俺達は兄弟の前に恋人同士なんだ。 キスはしてくれても、相変わらずその先には進まない。 彗と舞衣が生まれてから、父さんも母さんも家に居る時間が増えたから、俺達が恋人同士の時間が減っているのも事実。 時々思うんだ。 兄さんは、このまま終わりにしようとしてるんじゃないかって…。 胸の中に抱えていた思いを、俺は蒼ちゃんに吐き出した。 蒼ちゃんはずっと黙って俺の話を聞いてくれて、最後まで話すと 「辛かったね…。ごめんね、傍に居られなくて…」 って、抱き締めてくれた。 すると部屋のドアがノックされ、俺がびくりと身体を震わせると、蒼ちゃんが頭を撫でて 「ちょっと出てくるね」 って、優しい声で言い残して部屋を出て行った。すると、どうやら来たのは章三だったらしい。 「葵。お前…旅行に来て、何泣いてるんだよ」 呆れた顔をすると 「だから俺にしとけば良かったのに」 って、冗談めかしに呟いた。 「葵、今日は久しぶりに3人で寝るか?」 章三の言葉に思わずぎょっとする。 「ダメだよ!俺、荻野先輩に恨まれちゃうよ」 慌てる俺に 「圭吾?大丈夫。許可取ったし。あいつは向こうの部屋で説教タイムだよ」 って、どうやら兄さんと田中さんが泊まるらしい部屋を親指で指さして笑った。 「まぁ…、翔さんは元々不器用だしな。葵が誤解するのも分かるけど…。」 そう言うと、小さく微笑んだ。 その笑顔は穏やかで、荻野先輩がいかに章三を大切にしているのかが分かる。 「章三、お前…幸せそうだな」 ぽつりと呟くと 「あ?ん~、まあな。でも、時々束縛がキツくて殴り倒したくなるけどな。」 そう言って笑うと 「お前らさ、もしかして喧嘩したの初めて?」 と聞いてきた。 言われて見れば…無いかも。 小さく頷くと 「マジで!」 驚く章三に 「章三はあるのかよ…」 って聞くと 「俺らなんか、ほぼ毎日だよ」 そう言って笑った。 「兄貴と田中さんもある筈だよ。まぁ…ほとんど兄貴が田中さんにへそ曲げて、田中さんが宥めてるみたいだけど」 と答えた。 「し…信じられない」 驚く俺に 「いや、俺らからしたら、お前らが信じられないよ。付き合って1年だろう?ありえねぇ~」 って言われてしまった。 章三の言葉に俺は首を傾げる。 「大体さ、俺らとは喧嘩なんかしょっちゅうだっただろう?」 そう言われて 「蒼ちゃんとは、喧嘩して無いよ」 ぽつりと呟くと 「お前がそう思ってるだけで、小さな喧嘩はあったと思うよ」 って、章三が苦笑いする。 「そうかなぁ~」 俺が考え込むと 「それからお前、いつまで翔さんを『兄さん』って呼んでるんだよ」 と呟いた。 「え!」 「え!じゃねぇよ。今日は俺らしかいないのに、ずっと『兄さん』って…」 呆れた顔をして言われた。 「翔って呼んで上げたら?兄貴達みたいに『さん』付けがデフォな2人だって、呼び捨てにしてるぞ」 そう言われて考え込む。 「兄さんって呼ばれて、恋人の雰囲気になるのは難しいだろう」 って言われてしまった。 そっか…、呼び方かぁ…。 思わず考え込むと、章三は小さく笑って 「お前ら、本当に似た者カップル過ぎるわ!」 と言って、俺にデコピンした。 「痛!」 額を押さえて章三を睨んでいると 「さすが幼馴染。あおちゃんを宥めるのは、章三が1番上手いね」 って、蒼ちゃんが部屋に戻って来て笑う。 「あの…せっかくの旅行なのに、ごめんなさい」 俺がぽつりと呟くと、蒼ちゃんと章三が顔を見合わせて 「やっぱり、あおちゃんは天使だね!」 そう言って蒼ちゃんが抱き着いて来た。 「取り敢えず、飯にしようぜ。俺、腹減ったよ」 と言いながら、章三が歩き出す。 パンフレットを広げて 「食堂は2階の宴会場らしいぜ」 と話していると 「章三、待ちくたびれた」 って、荻野先輩が入り口で待っていた。
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