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突然ですが、兄貴になりました
母さんが再婚して1年目の夏
我が家は大騒ぎです。
「ほんぎゃ〜!」
と泣く赤ちゃんの声が2人分。
秋月家で過ごす2度目の夏に、俺はお兄ちゃんになった。
母さんが双子の赤ちゃんを産んだのだ。
それも七夕の夜に…。
「あおちゃん、オムツ取って」
母さんに言われて、紙おむつを持って走る。
「彗はあおちゃんに任せて良い?」
「分かった。舞衣は母さんお願い」
オムツ替えをしていると、グットタイミングで兄さんが帰ってきた。
「ただいま。何か手伝う事ある?」
リビングでオムツを替えている俺達に顔を出した兄さんに
「お兄ちゃん、手を洗ったらミルク作ってくれる?」
って母さんが叫ぶ。
「分かった。」
兄さんはそう答えると、洗面所で手を洗ってから哺乳瓶を出して粉ミルクでミルクを作っている。
「夏休みは、あおちゃんとお兄ちゃんが居てくれて本当に助かるわ」
俺と兄さんでミルクを飲ませていると、母さんがホッとした顔で呟く。
「母さん、彗と舞衣は俺達で見てるから、少し仮眠して来たら?」
夜泣きでほとんど寝不足の母さんに、兄さんはそう言って微笑む。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
疲れた顔をした母さんはそう答えて、寝室に向かった。
赤ちゃんが産まれてから、兄さんの事を母さんも「翔君」から「お兄ちゃん」と呼ぶようになった。初めは照れていた兄さんも、今やすっかり「お兄ちゃん」の顔になっている。
最初はお互い、おっかなびっくりでミルクをあげていたけど、今ではミルクの後にゲップさせて寝かし付けるまでになった。
二卵性双生児の彗と舞衣。
七夕生まれだから、織姫と彦星から名前を着けたかったんだけど…。
神崎の親父の名前が「織人」だったから、俺と母さんが何と無く戸惑っていると、兄さんが
「彦星は星なんだから、彗星から一文字もらって『彗』。織姫は機織りの名人だったから、羽衣の意味を込めて『舞衣』はどうかな?」
って提案してくれて、名前が彗と舞衣になった。本当は俺も兄さんも名前が一文字だから、舞衣も『舞』が良かったんだけどね。
母さんが、女の子だから母さんと同じ二文字で良い!って言い出したんだよね。
まぁ…二人の名前を名付けたから余計なんだろうけど、兄さんの溺愛っぷりはもう…俺がヤキモチ妬く位に凄い。
特に舞衣に関しては、父さんよりも「絶対に嫁にはやらない!」って豪語している。
ミルクを飲んで眠った彗と舞衣をリビングのベビーベッドに寝かし付けると、兄さんが愛しそうに見つめている。
そんな顔を見てしまうと、俺には兄さんの赤ちゃんを産んであげられない事が苦しくなる。
きっと子煩悩な良い父親になると思う。
彗と舞衣が産まれてから、兄さんは学校が終わると速攻帰って来るようになった。
大学の授業が終わって、剣道三昧になるんだろうと予測していたのに、学校にお願いして1年間部活を休んでしまったのだ。
家では竹刀を振っているけど
「母さんが大変な時、助けてあげるのが家族だから」って…。
正直、兄さんの子煩悩っぷりが予想外過ぎて、俺も母さんも…なにより父さんが一番驚いていた。
母さんは
「私、本当に良い子供を持ったわ!」
って、泣いて感動してたっけ。
そんな兄さんを見ていると
「舞衣は葵の赤ちゃんの頃に似てるんだってね」
舞衣の頭を撫でながら、兄さんがポツリと呟いた。
「え?」
驚いていると
「あれ?母さんに聞いてない?舞衣は葵に良く似てるって母さんが言ってるよ」
と言うと
「俺は葵の幼い頃を知らないから、舞衣に葵の幼い頃を見せてもらってる気持ちになるんだ」
って呟いた。
その瞳は愛しそうに見つめていて、胸がギュッと痛くなる。
俺は兄さんの背中に抱き付き
「今の俺もちゃんと可愛がってくれないと、捻くれるからね!」
と、呟いてみた。
すると兄さんは驚いた顔をしてから、ゆっくりと微笑んで
「それは困るな。俺が一番大切なのは、葵なんだから」
そう言って俺の頭を撫でた。
「でも…彗は兄さんに似てるんでしょう?」
「どうなんだろうな?田中が言うには、そうみたいだけど…」
兄さんの背中に抱き着いたまま、ベビーベッドで眠る彗と舞衣を見つめる。
その時間は穏やかで、凄く幸せを感じる。
兄さんが背中に引っ付いてる俺の腕を掴んで、背中から引き剥がすと、俺をそっと抱き締めた。
「母さんには感謝してるんだ」
ぽつりと言われて、兄さんの顔を見上げる。
すると幸せそうに微笑んだ兄さんが
「だって、彗と舞衣って俺達の子供みたいじゃない?」
って呟いた。
「な!」
真っ赤になった俺に
「いつもそう思いながら、彗と舞衣に接してるんだ。俺達には子供は望めないけど、俺は葵が居ればそれだけで幸せだよ。でも、こうして俺達と血の繋がった家族が居るって…不思議なんだけど、それだけで幸せなんだよな」
兄さんはそう言って俺の頬に触れた。
「俺は…兄さんが彗と舞衣に取られたみたいで、ちょっと……。いや、本当は凄く寂しかった」
俺がそう呟くと、兄さんは驚いた顔をしてからふわりと微笑み
「それは…悪かった。でも、愛してるのは、葵だけだよ」
って言うと、そっと唇を重ねる。
俺は兄さんの首に手を回し、キスを受け止めた。
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