アイノカタチ

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生徒会室の奥の壁に扉がある。顔認証システム導入で生徒会会長のみが使用できる部屋。 生徒会役員副会長が赤い顔してソワソワしつつ、チラチラとその扉を見る。1時間前に会長が入って行ったのをこの部屋で目撃しているから。会長が1人の生徒を抱っこしてーー。 奥部屋に入る際。副会長とAは初邂逅である。バッチリ視線が合い、Aは親指を立てた。 「絶倫ですよ〜」 Aの言葉に副会長の鼻から血が噴き出した。 それだけで閉まったドア。 副会長である入塚諒一はAの存在を知らなかった。会長が誰かを抱っこしている姿も見た事なくて、期待ハズレかと思っていた。転入生にも興味なくて、親衛隊にも手を出してる様には見えなかったのだ。 あの子は誰だろうかとパソコンで調べようとマウスを動かした瞬間、ハタっと動きを止めた入塚諒一。次いで顔面から朱が抜けて行く。 Aの言動はよくみる生徒たちのとは違っていて、自分にキラキラした目を向ける事もなく、自分が嬉しくなる言葉を使った。自分の趣味を知っているのは生徒会役員のみで、他は誰も知らないはずなのに。 会長が言った? グルグルしてると、奥部屋のドアが開いて会長が出てきた。髪型は乱れ、上着は羽織る程度でズボンはチャックは閉めてるがその上の釦は外れている。 口を手で覆い、額を机にぶつけた。痛いけれど、叫ばずにいられた自分をセルフ褒めしたいと思った入塚諒一。 会長が出てきたドアはパタンと閉じられた。中を覗きたい願望を抑え、会長に答えを求めた。 「どうして僕が腐男子だと彼は知っているのでしょうか」 冷蔵庫の中からウォーターボトル2本と冷凍庫からはアイス1つを取り出していた。入塚諒一の疑問に会長は瞬き一つし、答える。 「言ってなかったか?アレ、風紀委員長だぞ」 「生徒会長×風紀委員長最高っっーーーじゃない、え?」 「アレは…個人の趣味嗜好を全生徒分、把握してるから、隠そうとしても無駄だぞ。隠したら隠すだけアレが遊ぶ」 会長はフッと柔らかに笑い、会長はまた奥の部屋に入って行き、ドアが自動で閉まった。会長に抱えられた姿でどこにでも居そうな容貌の小さい感じがする彼が⁈風紀委員長!!?!そう言えば、と、考える。いつだって表立つ彼は副委員長と自身で言っていた。 本当の事を言っていたのかと。会長は知ってて隠してたのか、わざと言わなかっただけなのか問い質したい。 ーーー………また、中でシてるのかな?ツーー 「たっだい、マぁ⁈ちょっ!どうしたのっまた鼻血だして!!」 明るい声で生徒会室に入ってきたのは会計の潮見怜乃。が、入塚諒一の顔を見て焦って側に寄る。良い顔してダラダラ流すのを綺麗なタオルで押し留めた。 「なんで?1人なんだよね?なんで1人で鼻血出してんの⁈怖いから!」 「あ。怜乃…お帰りなさい。すいません。これには訳が」 「どうせ、妄想でしょー」 「妄想…ではありません!会長と風紀委員長がそちらの部屋にいるのです」 ニコニコと笑う入塚諒一が指す方向へ潮見怜乃は見る」 「ーーまたまたぁ〜風紀委員長は幻で居ないー不在じゃなかったっけ?」 と、潮見怜乃が首を傾げた時にドアが開かれた。 「〜けなくなるって……あれ?1人増えてる」 奥部屋から先に出てきたのは潮見怜乃が見た事ない人物。会長しか入れない場所で目を見開く。しかも、濡れ髪で肩にはフワモコタオルが掛かっていて上着は手に持ってシャツは第3釦まで開け素肌が見える。ズボンはきっちり履いていた。 「風紀、委員長…?コレが⁉︎」 潮見怜乃の驚き声にAは、その言葉に心の中でニヤリと微笑む。会長も部屋から出てきた。同じく濡れ髪でタオルでガシガシ拭きながら自分の席に座る。 Aがトコトコと歩き出す。 「副会長はさぁ」 Aに話し掛けられるとは思わなかった入塚諒一は肩を揺らし、アワアワしだす。チラチラとAの格好を記憶しようと見ているのがバレたかと思った。 「今、好きな人っている?」 「へ?い、いえ…居ません」 「そっか。質問変えるねぇ。現実に複数を相手にする人と自分1人を想ってくれる人ーー副会長ならどっちを選ぶ?」 「じ、自分を想ってくれる、人を選、選びますが…?」 副会長が座っている背後にAは立ち止まり、くるりと椅子を回して向き合う形になった。副会長は心臓バクバクさせ、キョドる。後ずさろうと思うも、椅子の背は机に邪魔されて、Aが顔を寄せてくるのを避けられない。 どこにでも居そうな容貌のAから放たれる妖艶さにノックアウトしそうでどうにかなりそうと思っていると視界に入った紅い唇が開かれた。 「そうだよねぇ。オレもそうだよ」 ーーー怖い。空気を、雰囲気を支配している風紀委員長の次に紡がれる言葉に恐々と、期待と。 「ふふ。1人の男に、このカラダーー弄ばれてるんだよ?」 耳元に寄せられた声は入塚諒一にしか聞こえないくらいの声量で、吐息も小さく掛けらた。 「キエエエエェェェェ!!!」 突如叫びながら立ち上がり、生徒会室を走り去った。 「「……」」 「ぶはっ!!!!」 会長と潮見怜乃は入塚諒一の見たこともない反応に目が点になっていて、Aは笑い転げた。 「“きえぇ”って、ははははは!やべ、もう腹が痛い」 「諒ちゃんに何言ったんだよ、あんた」 潮見怜乃が詰め寄ろうとAに近付いたら、笑うのを我慢しつつ、立ち上がって、会長が座ってる方へ歩き出した。 「オレを問い詰めるより、副会長を追いかけた方がいいよ?只今絶賛無防備中」 「っ!?」 潮見怜乃はAを睨んでから、生徒会室を出て行った。 Aは会長に後ろから抱き締め、頬にキスをすれば、会長の手はAの後頭部に回され、強引に唇が合わさる。上唇や下唇が会長の唇ではまれる。 唇が離れて、会長の椅子が回り、Aの腰を引っ張り、Aは会長の膝上に乗り上げた。直ぐに顎を持ち上げられ、キスが始まる。 「んっ、どう、したーーちょっ、スト…ストップ」 会長の口に両手で押さえると、額と額をコツンと合わせながら、Aの手を払った。 「他の男に近付き過ぎる」 キロリと近距離で睨む会長に、Aは吹き出した。 「オレの周り女子が居ないんだよね」 男子学園だから、当たり前と言えば当たり前。教師も女性はノー勤務。 「女にも渡さない」 断言する会長に笑いが止まらない。 「オレのこと好き過ぎるよ、幸は。って言っても、オレの事捨てたら許さないけど」 「それはこっちの台詞だ。簡単に捨てられそう」 「ふふふ。無いよ。このカラダ、幸以外だと拒否るもん」 「ーーへぇ」 会長の声が低くなる。 「……あっ!違うぞ⁈だれも触ってないから」 「触られないと拒否してるか分かんないもんだろ?」 「分かるから!あっ、こらシャワー浴びたからヤんないってッんぅ」 会長の左手は片尻を揉み、右手はシャツ裾から背骨に沿ってゆっくり撫でていき、唇は唇を捉え、即舌を絡め合う。 ードサドサドサドサドサー 「「ーー」」 唇を離し、Aは振り返り出入り口を見る。 図体がデカい。ガタイが良い。喋ることが殆どない。そして、この歳にして、この学園に居て、純情ぼーい。書記の萩原拓人は、熱があるんじゃないかくらいに顔を真っ赤にしている。 「おっと…続きは部屋にて!」 Aが素早く会長の膝から降りて、制服を整える。 「天然記念物、揶揄う、即シヌ。じゃまたね」 Aが片言気味に言い、会長に手をフリフリし、萩原拓人の横を通過した。 萩原拓人は何かに護られるようにして、日々を過ごしている。5人兄弟の末っ子。上4人とは年も離れており、蝶よ花よとホッペちゅぅ迄の教育をされてきた(笑)。初恋もまだな、オトメである。 「ーーアレは俺の嫁だ。だからキスもする。まぁ、あまり気にするなよ?」 「……お嫁さん…」 「萩原、仕事は順調か」 「うん」 こっくり頷いて自分の席に着く。 「ーー諒と怜は?」 パソコンが立ち上がる間に2人の空いた席を見やり、問う。 「あの2人は付き合いだすかもしれないし、そうじゃないかもしれない」 恋人や夫婦で感じる雰囲気じゃない2人が付き合い出す?恋人になるって……萩原拓人は思う。会長にもお嫁さんが居て、副会長と会計が恋人になったら、仲間外れカナ?? 「ーー!それは…おれ…」 生徒会役員に抜擢されて、驚いたけど、違う自分を見つけられるかもしれないと期待して、頑張ってみようと思って、承諾した。今まで周りに居なかったタイプの会長たちと仕事仲間として触れ合って楽しいと思っていた。 「…萩原。お前は焦らなくていい。いつか好きで好きで堪らないヤツが目の前に現れる。全てから護りたいって思うヤツがな」 会長の言葉に下がっていた顔を上げ、会長を見た。いつ見ても自信に溢れる表情。 「ーーー会長は…さっきの人、お嫁さんが、そう?」 「ああ。アイツが笑っていられる様にな」 「……うん。うん、わかった」 会長のふんわり笑顔は稀だと萩原拓人は知っている。あの人が大事にされているのを感じて、ほんわかな心地になった。 「……、…あ、の…会長?」 キーボードのタイピングは場所を覚えれば、難なく熟せる。ちらっと萩原拓人に視線を送る。 「どうした?」 「……ぁぅ……チュ、ちゅうって!気持ちいいの⁈」 顔がまた真っ赤になって、頬を自分で押さえている。 「…家族が好き、友人が好きとは違う好きがあるのは分かるか?俺はそれが俺の嫁で、嫁とするのは気持ちいいぞ」 「ーーふぉぉ!」 「それ以外のヤツとは絶対したくないし、嫁も俺以外とはして欲しくないと思っている」 「ん!」 首を縦振り数回した萩原拓人に、ニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべる会長。 この後2人は無言で仕事に取り掛かり、副会長と会計が戻ってくるのを待っていた。 ぴー.えす. 潮見怜乃くんは無事に入塚諒一くんを保護しました。
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