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1人静かに本を読んでいる者。席の左右や前後に座ってお喋りする者達。数人居て、1人がよく喋るグループ。みんながそれぞれ楽しそうに過ごしている授業後の小休憩。
残り数分と言う所で騒がしい声が聞こえた。この教室の中に入ってきて更に喚いている。賑やかだった教室がソイツだけの声となる。しかも、入って来た瞬間ドア近くにいた人とぶつかり、謝ったら許してやるとかなんとか。違う声が死んで詫びろとまで。
パタン。と読んでいた本を閉じ机の引き出しに仕舞い、徐に立ち上がったーーーークラス31人の内の1人、A。微かに響いた椅子の弾く音に反応したのは近くにいた数人。
Aは喚く男とそれに追随する男2人、対面している今にも泣きそうなクラスメイトとその他に向かう。
向かってくるAに気付いた黒髪の柔和な表情の男ーーー倉成駿。倉成駿はAを見ていた。自分たちに目もくれず教室を出て行こうとする、から放置し顔を元の位置に戻した次の瞬間、襟首を掴まれ引っ張られて、廊下に無様に転がった。
起き上がろうとした時に、叫び声がして顔を上げれば、頭はモジャモジャの背中が勢いよくこっちに向かって来て、避ける余裕もなくぶつかった。ドアが閉まり、鍵も締められる音がした。
残された赤髪ーーー沢木昇の顔色が青から赤へ、そして赤から青へ変化した。これにはクラスメイトも同じ反応する者もいた。
なぜなら、襟首を掴まれたと思ったら、Aがそれほど遠くはない窓側へ走り出したからだ。沢木昇は後ろ向きで抵抗らしい事も出来ずにいた。
そしてAは椅子に左足を掛け勢いに乗り、両足で机の上に上った。そして同時にタイミングよくAは沢木昇の襟首を持つ手と、腕に力を入れて、沢木昇を持ち上げた。
沢木昇は窓の桟に座る形になって、上半身が外に出ている。辛うじて両手指が必死に桟を捕まえられている状態で、この教室の高さを考えると体が震えた。
「お、お前っ!なんだよっ!!離せ!!!」
誰かも分からない奴に!と、Aを睨む沢木昇。
「放していいんだな?」
Aの起伏のない声音に、“今”、手を離されると呆気なく外に投げ出されるのは想像できる。
「ーーふっざけんな!」
「沢木昇ーーお前はオレのクラスメイトに向かって『死んで詫びろ』と言ったな。だから、オレもそうするんだ。わかるか?」
ここで初めて、視線が合う。
「居心地が良かった空間に突如として騒がしい異物が喚き散らして宇宙語を話していた。大切に思う雰囲気が台無しにされた。お前は言った。死んで詫びろと。だったらオレに迷惑を掛けたんだーーお前も、死んで詫びろ」
「なっーーーー」
「じゃあな、つまんねえ17年間オツカレサマデシタァ」
「お前っマジでふざーーーー」
Aは手を放して、沢木昇は手を離され、窓からずり落ち、消えた。
クラスメイトの声無き叫び声が響いた気がした。
少し遅れてポサっと音が外でする。
Aは座り直そうと思った時、強烈な視線を感じて中途半端な格好で前方のドアを見ると、居た。
Aは唇の端がヒクつくのがわかった。
ーー運が悪い。今日に限って授業に参加しているなんて。
外を覗き見れば、もうアレは撤収されていて外から逃げるのは無理なようだ。
Aの視線をクラスメイトは辿り着いた先に居た人物に歓声をあげる。その人物はAの視線が外れて素早く移動した。
Aが顔を元に戻したら、既にもう目の前に。
Aが驚愕している間にその人物ーーー海堂幸時は机の上で立っている状態から机の上に座らせた。
体育座りを強制的にした時に、担当教師が声を掛けながら入って来て、海堂幸時がいることに、その状態に軽く驚いた表情をした。
「どうしたのか」と聞いた時、Aは海堂幸時に「かえれ〜かえれ〜」と目を合わせず、口を尖らせながら言っている。それに対しての海堂幸時はAを見下ろし、悪どい笑みを浮かべた。
クラスメイトや教師、Aはその顔を見なかった。
海堂幸時は笑みを切り替えて爽やか仕様にし、するりとAの両手首を纏めた所で、Aは顔色を青くし、海堂幸時が居ない方へ両足を下ろーーーせない‼︎逆に抱き寄せられ、Aの耳に海堂幸時の唇がくっ付けられた。
「人前で目立つ様な事をするなんて珍しいねぇ」
小さな小さな声はAにしか聞こえない。
「ッ…」
「ほら、早く俺の首に腕を回して?」
「うっ」
Aはちらりと海堂幸時を悔しげに見上げる。海堂幸時のキラキラが増し、本人の笑みも深まる。
「バラされたくないんでしょ?」
「くっ!」
眉間に皺を寄せながら、素早くガッシリと腕を海堂幸時の頸の所で回し組んだ。そして、海堂幸時はAを抱き上げる。Aは海堂幸時の腰に両足を巻き付けた状態になった。
「あ。では、皆さんさようなら」
Aの荷物を持って海堂幸時はにっこり笑ってAのクラスメイトに告げ、教室を出て行く。
「あぁ!!!!!ゆきじぃ!何処に行くんだよ!!!」
廊下に出たら、転入生のばかデカイ声が響いた。
海堂幸時は歩みを止めない。
「なに?懐かれてたんだー」
海堂幸時はAの言葉に鼻で笑う。Aは肩越しに転入生を見る。転入生以外からも注目を浴びている。嫉妬やら羨望の目の他にも何故かキラキラしい目をしたヤツもいた。
「……ゆきさんや、ここでは我慢してねぇ〜」
「ん?」
海堂幸時の白シャツの襟を少し外側に引っ張り、Aは首をペロッと舐めた後、吸い付いた。海堂幸時はこの時Aの荷物を落とさなかった自分を褒めたい。
「んっ」
リップ音鳴らし、首から唇を外す。そして、転入生達に向かって笑顔付き手振りをした。転入生達が追ってくることはなかった。呆然とした者と鼻血を出してる者に目が行った頃、漸く長い廊下の角を曲がり、数歩進んだ所でAは壁に背中を押し付けられ、唇を海堂幸時に奪われた。
「ンン」
Aの咥内に舌を差し込んで舌を絡める。Aは海堂幸時の肩をペシペシ叩く。誰も居ないし、見てるのは監視カメラだけ。それでも、だ。
「ここ、やだ」
息苦しさの中で訴えるA。まだ足りないと思っている海堂幸時は我慢して額にキスをし、Aを抱え直して歩き出す。
「ん〜勃ちそう〜」
ノーテンキに言うAに海堂幸時の顔が凶悪さを増す。
「腹上死楽しみにしてろ」
「それはイヤ」
静かな廊下で2つの異なる笑い声。
ぴー、えす、
沢木昇さんはAのクラスメイトのみんなに元気な姿を目撃されて、安堵された。
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