プロローグ

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「理由を聞かせてくれるんだろうな」  目顔でうなずく。俺はおとなしく従った。 「――で?」 「シューテのモルシアンだろう」 「へえ、シューテのモルシアン……ってなんだそれ! それだけで説明になるか!!」 「足音が聞こえる、声を落とせ」 「……っ!」  ――ああ、もう、いちいちいちいちっ!  俺は、女に対してはいくらでも寛容で忍耐強くなれるつもりだが、男相手にそうするつもりはない。声に、態度に、苛立ちを隠さず、男の言葉を待った。 「ハーゲルのむこうに、エストリュースという島国があるのは知っているか?」 「名前だけは」 「では、汽車を降りたあとにでも自分で調べろ」 「なんの説明にもなっていないじゃねェか!!」  そのときだ。二つ向こうのコンパートメントから怒鳴り声が聞こえた。
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