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episode 264 臓器提供者②
それから数週間が経った——。
「屋敷に戻って欲しいって?」
九条敬はやはり九条敬らしく。
医師の言うことを聞き、優良患者としてきっかり2週間で退院。
事が落ち着くまでは僕の願い通り屋敷に戻らず。
己の経営するホテルの一室に寝泊まりしていた。
「パリのホテルから戻ったことにして」
「へえ。僕はパリにいたの?」
ベッドの中。
柔らかく裸の僕を包んでいた彼は悪戯に身を起こし僕を見下ろす。
「許して。あなたには感謝してる——大事な肝臓を分けてお兄様を助けてくれたんだから。けど」
「けど?」
綺麗に塞がった傷口を指先でなぞりながら。
僕は上目遣いに溜息を洩らす。
「もしもあなたの肝臓が移植されたと知ったら、せっかく助かったのにさ……お兄様拒絶反応で死んじゃうかと思って。そしたらあなただってせっかく肝臓を分けて下さったのに本望じゃないでしょう?だから……」
「僕はパリにいて何も知らなかったと。彼に移植された肝臓はあくまで僕以外の誰かのものだ。ってことだね」
寝乱れた柔らかな栗毛が手術後少し痩せた頬を包む。
「ああ、物分かりのいい僕のヴェルレーヌ」
僕はその髪をかき分け白薔薇のような頬に思わず口づけた。
「僕の我儘だってことはね、百も承知なんだ。でもあなたは言うこと聞いてくれるって信じてる」
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