6人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
秘密を持てば強くなる。じいちゃんの言葉はどうやら本当らしい。サロマという友達ができた僕はサロマと話したいがために学校を抜け出したり、いじめられてもいじめっ子たちが小さく見えて、逆に無視するようになり、いじめは段々と小さくなった。その代わりに態度が大きいと言われ出したが気にすることはない。
僕には普通の人が一生かけても手にできない秘密がある。それにじいちゃんの畑の手伝いをするようになったものだから父さんや母さんは驚いていた。小人の家族は僕とじいちゃんだけの秘密。じいちゃんとりんごの実に袋をつける作業をする中、小人たちはじいちゃんと僕の肩におしゃべりを仕掛ける。
「もう静かにして!」
肩のサロマにそう叫ぶとサロマはけらけらと笑う。
「父さんが言った通りだ!父さんも祐三をこうやってからかってたんだって!」
じいちゃんの肩にはタルチとキリク。じいちゃんがこんな風に畑作業をしていたなんて夢にも思わなかった。この畑はじいちゃんにとって大切な場所。小人たちと一緒の時間を過ごせる場所。これからもそのはずだった。
夏休みが始まった。その始まりと共にじいちゃんは入院した。予感していたのかも知れない。じいちゃんは日に日に弱っていく。何日か一回は父さんがお見舞いに連れて行ってくれた。それが何回か続いたあと、じいちゃんの目は瞑ったままになった。覚悟をしておけ。父さんにそう言われたとき、本当に心臓が止まりそうだった。
夏休みだからこそ、遊びに行くと言っては僕はじいちゃんの畑に来る。じいちゃんの容態を小人たちに話すたび、タルチは大きく息を吐く。
それが何度か続いたあと、タルチは八月のある日、僕に言った。
「泰介、私とキリクは旅に出る。ここには二度と戻れないだろう。サロマを頼む」
「旅?旅って?」
いきなりのことに僕は目を丸くする。タルチは肩を落として笑う。
「人生最後の旅だ。祐三が泰介を私たち家族に紹介してくれたのは、祐三も人生の終わりが近いのを知っていたからだ。私とキリクは祐三がいなければ生きていくつもりはない。残りの人生は世界を旅しようと思う」
「サロマは!?サロマを残していくの!?」
「終わりの旅には連れていけない。そして泰介、君はサロマの友だ。サロマに必要なのは私たちじゃない。泰介、君だよ」
サロマはじっと黙って聞いていた。すでに覚悟していたかのように。
「ちゃんと考えて!」
僕はそう叫んだが、次の日に畑に行ったときタルチとキリクはすでにいなかった。
「どうして!」
叫んだがサロマは悲しそうに笑う。
「父さんと母さんも寿命が近いのを知ってるんだ。最後の旅くらいに好きにさせたい」
サロマなりの親孝行なのだろうけど悲しいよ。
じいちゃんもタルチもキリクもいない畑。それは段々と荒れていった。どうすればいいかは分からない。僕に畑の世話はできない。
そして秋が来る。じいちゃんはまだ病院。これから冬が来ればサロマはどうやって過ごしていくのだろう。
「冬は祐三が食べ物を持ってきてくれたんだよ。父さんや母さんは色々見つけることを教えてくれたけど、雪が降ったら駄目かな……」
「サロマ、家に来ない?じいちゃんが良くなるまでさ」
僕の提案を聞いてか聞かずかサロマは考え込む。
「明日……、明日答えるよ」
サロマは何を考えているのだろう。僕には不安しかなかった。翌日、再び畑に行くとサロマは神妙な顔で僕に告げた。
「僕はお嫁さん探しの旅に出る」
「なんで!?これからどんどん寒くなるのに!」
「考えたんだ。僕は父さんや母さんや祐三に助けてもらって生きてた。これからは強くならなきゃ駄目なんだ。だから修行だよ。でもね必ず帰ってくる。泰介を一人にはしないよ。だから待ってて」
僕は膝をついてサロマを抱き締める。
「必ずだよ?」
涙は見せない。タルチもお嫁さん探しの旅に出て、じいちゃんのところに帰って来たんだ。今は泣くときじゃない。
「当たり前だ。必ず待ってろ」
次の日、サロマはじいちゃんの畑にはもういなかった。
学校でいじめはなくなったが、毎日は静かに流れる。雪が降り、年が明ける少し前にじいちゃんのお葬式があった。もうこの世の中に小人の家族を知っているのは僕しかいない。じいちゃんのとっておきの秘密は僕のとっておきの秘密。そして約束。
じいちゃんの畑でサロマに会った夜はどうしても忘れられない。忘れちゃいけない。だから僕は父さんと母さんにじいちゃんの畑を売らないように頼み込んだ。
「僕が大きくなったらじいちゃんの畑を継ぐから!」
あまりに熱心に言ったからか父さんと母さんは根負けして売らないでいてくれた。それから、近所のりんご畑を持っているおじさんにりんごのことを教わる。手伝いもしているとじいちゃんの昔話なんかも出て、僕は得意げになる。
じいちゃんにとって自慢の孫にならなきゃ。サロマが帰ってきたとき、じいちゃんの畑がなかったら悲しいだろうし。
最初のコメントを投稿しよう!