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更紗はこの女金貸しが初めての執行だった。
普段は質素なナリで高台にある有名な高級住宅街に住んでいたが、周りの住人はお手伝いさんだと思っていたようだった。
その日は北風が肌を刺す冬の夕暮れだった。
高級外車から降りたその女は人目につかない様に別に作った専用の裏勝手口の20段階段を登りそこからこっそりと家に入って行く。
女は必ずその階段を登り、途中で立ち止まっては美しい街の夜景を眺めては、まるでその全てが自分の物のように、自分の為にあるかのように両手を伸ばして抱きしめる。
更紗はその女の立ち止まる場所が13段目であり、そこから眼下に広がる美しい街並みが一望できる場所である事を十分に把握していた。
そして15段目にある植栽は闇にまぎれて誰にも気付かれずに存在を消せる場所だと言う事も調べ上げていた。
そしてその執行の日。
その女が立ち止まり両手を広げた瞬間、
更紗は100均で買って加工したバーベキュー用の鉄串をその女の頚椎にゆっくりと確実に刺し入れた。
自分の体重を少しだけ乗せるだけで殆ど力は要らない。
素早く串針を抜き取ると女の額を支えて刺した所を手袋をした指で押さえた。
女の身体は痙攣し何やら言葉を発したが、次の瞬間美しく点滅を繰り返す夜景を抱きしめながら階段から闇へ消えて行った。
新聞では脳疾患による意識障害で階段を踏み外した転落死と発表された。
その後 捜査が進むと裏稼業の金貸しの証拠が上がり、それに関わった多くの債務者は行方不明か自殺していた事が分かり女の家族はことごとく逮捕され暫くメディアを賑わした。
そしてその女の家族は離散した。
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