最後の時

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桜子は奇妙な感覚で意識を取り戻した。 自分の唇から流れ出す声や言葉が全く他人だった。 しかしこの声の持ち主には聞き覚えがあった。 悠木美代 ゆっくりと立ち上がった先にはあの男がいる。 長谷部堅次 レイプ魔であり殺人者。 サララを絞殺した狂気の目の持ち主。 しかし今は違っていた。 まるで哀願するかのように私に話しかける。 「違うんだ。 私は君だけを愛し求め続けた。 どんなに自分の身が焼かれようと構わない。 やっとこうして君を取り返せたんだ。 もう何も望まない。」 「堅一さん、貴方の足元をよく見て。 そこに横たわる娘達は誰なの? 私達の愛する娘達... 何をしたのか分かってる? 親として 人として取り返しのつかない、絶対に許されない事をしてしまったのよ。 私はあの日 貴方に会いに行こうと東京行きの汽車に乗った。でも気付いたら病院のベッドにいてほとんど記憶を失っていた。 でも心が秘めていた記憶はちゃんと私を導き、娘達の側でいつも寄り添っていた。」 「娘達の事はどうだっていい。 私は君がこうして戻って来てくれただけで満足なんだ。 その為だけに私は生きて来た。 さぁ、私の手を掴んでくれないか。 そしてあの時 果たせなかった2人の幸せを取り返そう。」 「分かったわ。 でもその前にやらなきゃならない事があるでしょう。」 「やらなきゃならない事? 私は今まで数え切れない程の事をやって来た。 もうすべき事はない。 それにこの娘達の命を奪ったのは私では無く弟の堅次だ。 ...私じゃない。」 「可哀相な人... いつまでそこに逃げ込むつもりなの? 貴方にはそもそも弟はいないでしょう。 それは貴方が創り出した虚像だし、逃げ込む為の獣の化身。」
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