最後の時

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桜子は首を締められて全身の感覚が消えようとしていた。 ところが掌に何かの感触があり力なく掴んだ。 すると、 「いい? それを思いっ切りぶつけるの。 その男の体に向かって。 思いっ切りね。」 桜子の唇の横から聞こえた気がした。 でも、 もう限界だった。 「もう動かせないよ。 動かない...」 長谷部は息絶えた更紗の口に頬を当てて呼吸がない事を確認していた。 そして首を締め上げていた桜子の顔を見ると、青白く闇に浮かび上がった美代がそこにいた。 彼は驚いて腕の力が抜けた瞬間... 脇腹を熱い物が突き抜けたように感じ鋭い痛みが全身を支配した。 「ごめんなさい... 私は今でも貴方を愛してる... 平泉の幸福は貴方がくれたし... サランもサラサも授かった。 でも... 許してね。 この愛する娘達を死なせる訳にはいかないの。 ねぇ覚えてるでしょう? 皆んなで歩いた夜の浜辺... 美しい星ぼしの囁き。 あの時の幸せも貴方のお陰だった。 サラサが間違った考えで人を殺めた時に、サララが自分がした事と勘違いしてビルから身を投げた時も貴方が時間軸を入れ替えて2人を守った。 でも時間収縮の影響を受けたのか2人の心が入れ替わってしまった。 それでもこの娘達はそれを克服しながらわたしを... いえ、私達を救おうと必死だった。 それなのに貴方は狂った考えに気づかないまま2人を追い詰め、桜子を巻き込み自分の欲をひたすら追い求めた。 しかも存在しないもう1人の自分まで作り上げて... それが私への愛なの? 娘を奪う事のどこに愛があるの? 違う... 私も生きた証をこの娘達に求めたのかもしれない。 私も罪深い母親だった。」 「私は間違っていない...」 長谷部はそう唸りながら脇腹を押さえた指の間から吹き出る血液を止められなかった。 流れ出た血は娘達を染めた。 長谷部の虚ろな目は夜空を漂う美しい顔を見ていた。 そして長く大きな息を吸った。
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