新たな世界

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強い不安と憂鬱な思いを秘めて桜子は出社した。 社内では仕事内容を1つずつ思い出しながら意外とスムーズに処理する事が出来た。桜子にとっては随分と職場から遠ざかっていたし、あの事件の事も皆んな知ってる筈なのに何となく社内の雰囲気に違和感を覚えながらも無事に仕事を終えた。 帰り際 友人のマイコに電話してみようかとも思ったが、サラサの話を聞いてからする事にした。 悠木屋の店前に着くと、佇む懐かしい顔を見つけた。 幸谷 仁。 あのサララを誘拐したとされた... 桜子の恋人だった人。 幸谷は桜子を見つけると右手を軽く上げた。 「やっと会えた。 電話にも出てくれないし... でも元気そうで良かった。 少し話をしたいんだけど... どうだろ...食事でもしながら...」 幸谷が切り出すと、 「ごめん、今夜はわたしと約束してるの。」 悠木屋からサラサが突然出て来て桜子の手を掴んだ。 「え?! あ、あなたはヒョットして、あのサララさん? ぼ、僕 大ファンなんです。 どうしてこんな所にいるんですか? それに桜子さんと友達? 以前、言ってたのはホントだったんだ。 サララさんとは顔見知りだって。 あの時は冗談だって思ってた... ホントそうなんだ。 ビックリした。」 幸谷は退却(あとすざり)しながら早口で言った。 「と言う事で、ごめんね... 今夜は先約でさくちゃんとデートなので!」 サラサが桜子の手を引き店に入ろうとすると、 「幸谷さん、一つ聞いてもいいかな? ...わたし達って付き合ってる?」 「えっ! いきなり核心話... 僕はそう思ってたけど、ちょっと性急過ぎたね。 桜子さんに負担を掛けていたみたいだ。」 「うん、そっか... ちなみに山歩きとか好き?」 「え?山歩き...」 「そっ、アウトドアとか...」 「う~ん、あんまり興味ないかな。」 「だよね...今日はごめんね。」 桜子とサラサは店の中に消えて行った。
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