サララとサラサ

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人の記憶は生まれた時から脳の(わだち)に刻み込まれていくさざ波。 その波は最後の時に解き放されてわたしの細胞を揺らし物語を語り始める。 わたし達が赤ん坊の時に巻き込まれた津波で両親は行方不明となった。 きっと命と引換えにわたし達を救ってくれたんだと思う。 小さい頃は施設の人に連れられてこの浜辺に来て手を合わせた。 3歳の頃 母のお兄さんがわたし達を見つけ出してくれた。 それから毎年ずっと叔父さんとこの街の浜辺に両親を訪ねている。 今日は1年ぶりに両親に会いに来た。 仕事の都合で夕方に着き、ホテルにチェックインして浜辺に向かった。 毎年訪れているので少しずつ辺りが整備されているが分かる。 夕闇が月と星を迎え始めた。 砂浜のベンチに座りわたし達は無言になる。 多くの人々の声が波間に揺れている。 わたし達の周りに渦巻いた多くの記憶が泡となって波に飲み込まれて消えて行く。 低い丘の公園にはライトアップされた1本の松が闇夜に佇み、迷ってしまった記憶を導く灯火(ともしび)のように揺らめく。 砂浜に腰掛けた2人の影はいつまでも海の夜空を眺めていた。 おわり
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