月野とお月様

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「コンス君……もしかして、私のこと好きなの?」 「はぁ?そんなこと…あ、あるわけ、ないだろ!」 「そっかぁ。ちょっと残念だな。」 「え?」 「……私は確かに色んな人に恋をしてきたけど…人に言えない辛いときや苦しい時、いつだって何も言わず優しく照らしてくれてたのはコンス君だから。…こうやってお話出来て、凄く嬉しい。会えて良かった!ありがとう。コンス君。」 「………。」  ニッコリ微笑む私を、不思議そうな顔でじっと見つめているコンス君は、私が好きな優しい穏やかな光を瞳に宿していて……本当に月の神様なんだなぁって今更実感する。 「毎日、迷惑かけててごめんね。でも今の私が元気でいられるのはコンス君が居てくれたからなんだ。本当にありがとう。」 「キミは………僕をどう思う?」 「え?月のこと?」 「違う!今の姿の僕だ!」  ふんっ!と仁王立ちになっているコンス君をまじまじと見つめる。  一重の少しつり上がった大きな瞳に、高い鼻梁、少し薄い唇がバランス良く配置されていて肌もツルツルで美少年という言葉がピッタリだと思う。 「凄くカッコいいと思うよ。」 「僕を……好きになれそうか?」 「え?勿論だよ。だってずっと月が好きだったんだよ?」 「まぁ、そうなんだけど……んー。キミの場合は何と言うか答えに重みが無いと言うか…」 「失礼な!酷いよ!」  思わずコンス君の胸元をぽかぽかと叩こうと振り上げた拳は、意外と大きな彼の手に優しく包まれて引き寄せられ──その勢いで、ポスッと彼に抱き締めてられてしまった。 「へ?あの……ナニコレ……」 「あれ?今までの威勢の良さはどこいっちゃったの?」 「だだ、だって!こ、こんなの…されたことないから……」 「ふーん。」  嬉しそうに聞こえるのは、気のせいだろうか。  コンス君の腕の中は温かくて優しくて。  まるで月の光に照らされているように、落ち着いて安心する。 「研究者や仕事以外で、飽きもせず毎日僕のことを見てるのなんてキミくらいだよ。」 「そうなの?」 「そうだよ…初めは本当に迷惑だったんだ。」 「う…ごめんなさい。」 「色んな話を一方的に聞かせてさ。…キミはいつも元気で明るくて、楽しそうで……うっとおしいはずのキミの話を聞けるのがだんだん楽しみになっていった。でも、たまにキミが悲しそうにしたり、落ち込んだりしてるのを見て……こうして抱き締めて励ましてあげたくなった。」  きゅっと私を抱く腕に力が入って、ドキンと心臓が高鳴る。  恥ずかしいのに…離れたくなくて。  コンス君のローブをそっと握ると、頭を優しく撫でられた。 「……美香。」  甘く響いた声色に胸が締め付けられる。  思わず顔を上げると、愛しそうに目を細めて私を見ている彼と視線が合った。  どうして私の名前知ってるの?  やっぱり、神様だからかな。  ってか、コンス君の顔が近いよ……どうしよう。  ドキドキしすぎて頭がうまく働かない。  ゆっくり近づいてきたコンス君の顔はとうとうぼやけて見えなくなり、そのままぶつかりそうで思わず私は目を閉じた。 ──チュッ。  え?今のって…まさか……。  驚いて目を開けると、ぼやける距離にいるコンス君がふっと笑って私の唇をカプッと甘噛みしてきた。 「んっ!ちょっ、コンス君?!何するの!」 「何って、キスだけど。嫌だった?」 「い、嫌じゃない……けど!急にこんなことされても困っ……んんっ!」  チュッ、チュッと啄むようにキスを繰り返されると、どんどん体の力が抜けてへにゃりと芯が蕩けていくような感覚に囚われる。  そっと唇を離して私を優しく抱き締め直すと、コンス君が噛み締めるように囁いた。 「ずっと、キミに触れたかった。会いたかった。話がしたかった。うるさくて、やかましくて、騒々しいキミが……」 「ち、ちょっと!全部うるさいってことじゃない!」 「ふふ。そんな美香が……僕は好きだよ。」 「ふぁっ?!す、好きって…っ?!」  驚いて目を瞬かせると、ふわりと笑ったコンス君が月明かりに照らされていて。  その神々しい姿に──全身が鷲掴みにされたように震えた。 「キミの大好きな月で…僕と一緒に生きて欲しいんだ。」 「月で?それは凄く嬉しいけど、私人間だから宇宙空間に出たら息できないし、破裂しちゃうよ?」 「あのさ。僕を何だと思ってるわけ?神様に出来ないことなんて無いよ。それに、キミが破裂しちゃったら一緒に居られないでしょ。」 「まぁ、そう…だけど。凄いね、神様って。」  感嘆の声を上げると、コンス君は嬉しそうに目を細めた。 「一緒に来てくれる?」 「うん!行く!!月で暮らせるとか最高だよ!って、コンス君こそ、いいの?私なんか連れてって…わっ!」  むぎゅと潰れるくらい、コンス君に強く抱き締められて言葉が続けられなくなった。 「なんかじゃない。美香だから、僕は一緒に居たいんだよ。」 「うん…ありがとう。」  ふっとお互いに笑い合って、手を繋いだ私達は夜の空をゆっくり浮遊して月へと上がっていく。  月に家とか建てたら、観測してる人達が驚くかな。  でも家が無いのは嫌だし、コンス君ならきっと神様だから何とかしてくれるよね?  あ、両親に何も伝えてないけど…夢枕に立って伝えたらいっか。  色んな疑問や不安もあるけれど、それ以上に嬉しかった。  小さい頃から大好きだったお月様と、月で暮らせるなんて……。  皆を優しく癒す月の光は、この日私だけを照らすかけがえのないものになったんだ。 おしまい。
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