プロローグ

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「食べないの?のびるよ?」 「食べるよ」  俺は窓を閉めると彼女の向かいに置かれた椅子に腰を下ろそうとして、そこで思いとどまる。見ると椅子は夜露によって濡れていた。 「それはそうだ」とぼやきながら俺は再度窓を開けると部屋へと戻り、乾いたタオルを持ってまた外へ。椅子の座面の水滴を拭き取っていく。 「椅子濡れてたでしょ?どうしたの?」 「袖で拭いた~」  見ると彼女のトレーナーの袖が濡れている。何ていい加減な……と思うも口にするのも面倒で俺は溜息をつくのにとどめ椅子に腰を下ろした。  割りばしを口にくわえて割るとフタを剥がし湯気の立つ容器に口を付けスープを一口飲んだ。固まった身体に醤油ベースのスープの熱がじんわりと広がり、弛緩していくのを感じる。そのまま箸で麺を掴み、ふーっ…ふーっ…と息を吹きかけるとズズズーと一思いに啜り上げた。  咀嚼し飲み込むと口からほわん……と白い息の塊が出た。  それが空気中に霧散していくのを感じながら再びスープを一口飲むとやはりまた口から白い息の塊が出た。   やはり……いい。    こんな冬の明け方の空気の中わざわざ厚着をしてまでここにいるのはこのためだ。  この季節、明け方の空気の中食べるラーメンは格別だ。着こんでいても震えがくるのは必然だが、その分ラーメンの温かさをより強く感じることができる。  これがマッチポンプというやつだろうか…?    冬の明け方、このベランダで二人揃って安いラーメンを啜るこの時間は俺たちにとってのお気に入りの時間だ。
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