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そこで「ぷはっ…!」と声がしたため目を向けると彼女が恍惚とした表情を浮かべていた。その両手で持ったラーメンの容器は既に空になっている。
「早くない?もう食べ終わっちゃったの?」
「お腹すいてたから……あつーい!」
そう言う彼女の顔は上気している。額には汗が浮いており、手で拭うと前髪が額に張り付いた。あんな一心不乱にかき込んでいればそうもなるだろう。
彼女はほてった顔を手でパタパタと扇ぎ、続けてトレーナーの襟を摘まむとやはりパタパタとさせた。
汗だくな彼女だが、この朝の空気の中ならすぐに汗は引くだろう。風邪をひかないか気がかりではあるが。
「ふぅ…美味しかったねー」
そう言う彼女は満足そうだ。
「俺まだほとんど食べてないんだけど」
「遅くない?」
「普通でしょ?」
「少しちょーだい」
そう言って彼女がこちらへ箸を伸ばしてきたため俺はそれを躱す。それでもなお箸を伸ばしてきたため、片手で持った容器を彼女から大きく遠ざけた。
「けーーち!」
彼女がぷーっと不満げに頬を膨らませる。
何とでも言えばいい。例え彼女でもこのラーメンは渡せない。どうせ一口程度では済まないのだ。一つ許すとどこまでも調子に乗る。
彼女の物欲しそうな目を受けながら俺は麺を啜り上げた。
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