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「せっかく早起きしたんだからさ、もっと早朝の景色とか楽しんだら?食べてばかりじゃなくてさ」
俺が1日の始まりを噛みしめている間、彼女が噛みしめていたのは麺だけだ。
「むーー……失礼な!私だってちゃんと景色も楽しんでるよ!」
「どーだか…」
ラーメンに夢中で景色なんて微塵も見ていなかったように感じる。
俺がまた一口麺を啜り上げるとやはり彼女は物欲しそうな目を向けてきた。
そこで再び甲高い汽笛が響いた。
目を向けると、遠く、住宅が積み重なったかのような高台の合間。住宅地の中に渡された陸橋の上を、連なって走る始発電車の小さなシルエットが見えた。
「始発動き出したんだねー」
彼女が他人事のように呟く。
「ああ。早起きなサラリーマンや学生を乗せて走っていく」
こんな早朝から自らの勤めに向かう訳だ。お疲れ様ですと言わざるを得ない。
「なんかいい気分!」
対して彼女は本当に気分良さそうにそう呟くとにーっと歯を見せて笑みを浮かべた。
「え……何で?気分良い?」
「うん!だって皆が仕事や学校に行かなきゃいけない時にこんなふうにラーメン食べてゆっくりしていられるんだよ?気分良くない?」
「いや……良くないでしょ…。むしろ皆が頑張っている時にこんな風にしていることに罪悪感すら感じるよ……あと……背徳感かな?」
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