おとうさんのせなか

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あなたにもし子供が生まれたら教えてあげるといい。いつの時代も父の背中はいいものだ。ところで、あなたがいつ、最初に父という存在を認識したのだろうか。 「…などといった疑問が当たり前のように生じる今日この頃。誠に由々しき事態であります」 アナクロニズムの化石標本が論壇のペットボトルを揺さぶっている。バーコード付きのゆでだこはPTAの書記を務めている。 長かった休校期間があけ、閑散とした学校に恐る恐る生徒たちが登校してきた。 ステイホームはすっかり子供たちをだめにしてしまったらしく、机に向かったものの、覇気もやる気も全く感じられない。 「このままじゃアカン!」 「教師が弛んでいる」 「学校は子供を勉強させるところでしょ」 付き添いの保護者から次々と不平不満が沸き上がる。そして、クレーム台風の進路上に職員室があった。殺気を感じた教師が校長に密告し予防線を張ったので事なきを得たのだが。 「皆さん、おっしゃる通り、学校は勉強する場所です。議論の場ではありません」 教頭が機転の利いた返しで父兄を黙らせることに成功した。すごすご引き上げていく親たちには煮え切らない者もいたらしく、何やらコソコソ話し合っている。 「ふう、万事休すでしたな。校長」 教頭はほっとバーコードを撫でおろした。 しかし、校長は警戒を緩めなかった。「いや、モンスターは死んでない。近いうちに第二、第三の」、と何処かで聞いたような警告を発した。 「コーチョー!!」 ドタドタドタと土煙をあげて教頭が駆け込んできた。 「引き出しの爪を折ったら自腹で弁償したまえよ」 右足を差し上げた教頭に校長は釘を刺した。ストンと引き出しが床に落ちる。 「あ。」と教頭。 「あ?」と校長。 見つめあう二人には恋の花が咲くこともなく、修繕費の負担を巡って亀裂が生じた。 「便利な道具は君のポケットに入っている」 校長は教頭の膨らんだ胸元を指さした。 「アハン」 「アハンじゃない! 5万だ!」 「…5万って」 教頭が思わずのけぞる。「君が今年になって破壊してくれた学校の修繕費だ」 「…」 「耳を揃えて払ってもらおう。ああ、鼠にかじられただの不条理な言い訳はいっさい!受け付けないから宜しく」 無慈悲な宣言に教頭は青ざめた。 「それで、コーチョー!」 彼は唐突に果たすべき役割を思い出した。 「分割払いは許さん」、と厳しい態度で臨む校長。 「分割どころか一喝されそうです」 教頭は窓の外を指さした。黒山の人だかりが校庭を埋め尽くしている。
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