おとうさんのせなか

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隣の山田君の家庭などもっと父親の存在が薄い。 というか、てっきり母子家庭だと思われている。彼に父親の職業を問うても「ま、時々姿を家の中で見かけるし。そこら辺に浮いているんじゃね?」とまるで幽霊扱いである。 幽霊父兄。そんなもんいてたまるか。 さて、うちの父といえば何だかよくわからないシステム開発の会社に勤めているらしく、ずっとパソコンに張り付いている。まれに実体化する彼とつかの間のやり取りをする。その会話内容によれば、個人情報を扱う部署に関わっているらしく、帰宅や外出すらままならないのだという。 考えてみれば激務のエッセンシャルワークと言えるが、本人は楽しそうである。 「いてもいなくても変わらないなら結婚する意味がないわ」、と母がぼやく始末である。 さて、選挙戦も中盤にさしかかり、家庭の事情や仕事の都合といった万能弁解によって候補者が次々と脱落していった。 ある日なぞ、奇跡的に降臨した父に選挙の意欲を問うと「まぁ、決まったら全力出すわ」と言い切られる始末。 父よ。デスマーチの修羅場ではなかったのか。
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