そにょ4

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そにょ4

 何故か2日目も3日目も本日4日目も、私はお城に来てご飯を食べてからフレディさんとお茶をしながらお菓子を食べつつ世間話をするという、不思議な流れになっている。いやほんと何故だ。  家族には友達が出来たからと言って、最終日の舞踏会までは放置プレイをお願いしておいた。  何だかこんな小娘と楽しそうに話してくれるフレディさんを有り難いと思ってしまったのと、話をしていて色々教えてもらったりすることも多くて楽しいんだよね。  と言うかこんなに毎日サボってていいのかフレディさん。  まぁこのイベントの時だけなんだろうけど。  毎日町や村の人間で満員御礼ののどかな雰囲気のお城では、警備の人も特にすることが少ないのだろう。 「なんか、ジジババのお茶仲間みたいな感じですよね私たち……」  フレディさんが用意してくれていたミルクティを飲みながらのんびりした気分で裏庭を見渡した。相変わらず人気がない。 「そうだねぇ。僕もこんなに若い女性と長いこと話すのも初めてだけど、沈黙してても緊張しなくて済んでありがたいよねぇ」 「なんか最初のとき、女性と話すのも緊張するとか言ってましたもんねぇ。  女性に慣れたのなら、結婚する日も遠くないですよ。元がいいんですもん。  私でよければいつでも話し相手になりますよ~」 「…………あ、ああ。うん、そうだと、いいねぇ……。  ところでさ、明日は舞踏会あるけどレラは出るの?」 「あー、一応出ますね……」  イヤだけど約束は約束だしね。 「……やっぱり、王子様と踊りたいから?イケメンだもんねぇ」  フレディさんがからかうように柔らかく笑った。 「あー、イケメンなんですか?  まぁ別にどっちでもいいんですけど、一度は経験で我が国の王子様と踊るのもいいかなー、と」  踊らないと泣く人が若干いますしね、彼女と魔法使いさんが。  王子様と結婚したくもないしな。だってお菓子屋さん持てないじゃない。  さくっと役目果たして帰りたいわ。 「あ、フレディさんは出ないんですか?舞踏会」  せっかくなら上手く踊れる靴もあるし、一緒に踊ってみたかった。 「あー、どうかなあ。僕はダンスもあまり得意じゃないしねぇ」 「そうですか……残念です。苦手なら仕方ないですもんね」  本当に残念だった。  舞踏会の楽しみがどーんと減ってしまったような気がする。  まぁ仕方ないか。  でもそれなりにお洒落するし、カタリナかあさんに綺麗にしてもらう予定だったのでフレディさんにも見て貰いたかったんだけど。  いや、見てもらいたかったって、特に何かある訳じゃないんだけどね。滅多にないから残念かなって。 「じゃ、私そろそろ帰りますね。明日は舞踏会まで店を開く事になったのでお会いできるの当分ないかも知れませんが、頑張って下さいね!今のフレディさんに堕ちない女なんて居ませんから!」  手を振って去っていくレラを見送りながら、フレディが、 「堕ちてくんないじゃないか現に……」  と溜め息をついていたことなんかは知るよしもなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 「まあまあまあまあ。二人とも何て可愛らしいのかしら!」  店を早めに閉めて、舞踏会の為のドレスとパンプスに履き替えてメイクアップも済ませた私とマリアは、カタリナかあさんにとても綺麗にしてもらっていた。  マリアは元がいいから当社比150%増って感じ。髪も両サイドを細い三つ編みにしたものをいくつか後ろで合わせる感じでまとめ、白やピンクの花の髪飾りを後ろにつけて、本当に妖精みたいなのよ。  なんなのこの可愛い生き物。  私もサーモンピンクの衿ぐりが開いたタイプの大人っぽいデザインのドレスでいつものじゃじゃ馬テイストは影を潜めている。  メイクも香水も薄めにしてもらったが、大人っぽい感じに仕上がっておりますよ。まぁ元は平凡なんでそれなりだけどね。 「レラ姉さん、王子様と踊るなんて緊張するよねぇ」 「マリアは可愛いから、王子以外も気をつけないと変な虫がつくわよ」 「やだわレラ姉さん、いつも誉めてくれるんだから。  レラ姉さんもすごく綺麗だから王子様に見初められるかも~♪」 「心から遠慮したいわそれは」  洋服が洋服で汚れるといけないので、舞踏会の日だけ行き帰りは馬車を借りていた。  と言っても、カボチャの馬車とかのファンタジー溢れるものではない。馬二頭に荷台のところに、ただの木箱に毛が生えたような腰かけがついてるだけのモノである。でもパンプスで一時間以上舗装されてない道を歩くのは苦痛なのでとってもありがたい。  移動中、姉妹できゃいきゃいと話をしてる間にお城に着いた。  父さん達は、店の片づけや仕込みが残ってるので、夕食だけ食べてから帰るらしい。 「折角だからゆっくり楽しんでおいで。馬車は12時に城を出る乗り合いを頼んであるからね」  城に入ってまた色々違う料理を楽しんだ私達は、食後、父さんとカタリナかあさんを乗り合いまで見送った。 「さて、舞踏会に行きますか妹よ」 「そうねレラ姉さん」  二人してしゃなりしゃなりと普段よりおしとやかに移動して、舞踏会の会場へ入った。  着飾った若い女性も若くない女性も沢山いるが、若い男性もオッサンも沢山いる。  婚活パーティかここは。  いや、出逢いの場を求めてるのはいいんだけど、かなり目がギラついてるのが少々怖い。  王子様と踊るのもランダムなので、名前を書いて木箱の中から1枚紙を取る。  マリアは何と2番目。私は25番目だった。 (そんなに待つのか……)  ちょっとうんざりしたが、王子様と踊りたい女性は50人は超えている。むしろ真ん中より早いだけマシなのだ。  むしろ一人一人は短時間とは言え、踊る王子様は大変だろうな~と同情してしまった。  大きな扉が開いて、ジェフリー=グランデ王子ご登場である。  キラキラと輝く長く美しい金髪、青い瞳、見目麗しい顔立ち。高身長で細身ながらも鍛えられた感じの筋肉質な体つき。二十歳前後だろうか。 (いやー、いかにも王子様って感じよねぇ)  私はぼんやりと見ていた。見とれていた訳ではなく、興味がなかったからだ。  ぼんやり見ることでファジー効果で適度にぼやけていい感じ。  それでも、カボチャパンツに白タイツとかでなかっただけ良かったと思った。そんなもの見せられた日にゃー笑わずに踊り切れる自信がない。  周りのキャーキャーしてるお姉様達を見つつも、キョロキョロ辺りを見渡した。 (やっぱり、フレディさんは来ないのかなぁ)  今日は話しどころか顔も見ていない。このところ毎日見ていたあのふんわり笑顔が見れないのは、何だか物足りない。  と、気がついたらマリアが王子様と踊ってる。うおー美男美女が舞ってるよ。うちの子一番可愛い。  頬染めちゃってまぁまぁ。  すっかり心は近所のおばちゃんである。マリアには幸せになってもらいたい。あんなに可愛くて性格もよくて思いやりもあっていい子なんだもの。  ほんわかした気持ちのうちにダンスが終わり、お辞儀をしたマリアは私のところにやって来た。 「レラ姉さん、王子様格好良かったよぅ~っ!」 「そうかそうか。惚れた?」 「いや、それとこれとは別。私にはフェルナンデスがいるし」  フェルナンデスは幼なじみの男の子で、ツンデレな男の子である。マリアより2つ下なんだけど、「俺が18になったら結婚してやるから嫁に行かずに待っとけ」とか言われたらしい。 「へえ~ガキのクセにとか言ってなかったっけ?」 「……ガキよ。でも昔からそのガキが好きなのよっ」  まー、それはそれはお幸せな事で。私より先に嫁に行きそうで複雑な気分だけど。ま、マリアが決めたんならいいんだ。  だらだらと話をしながら待ってると、ようやく私の順番が来たようだ。 「じゃ、後でね」 「レラ姉さん好みのオッサンじゃないけど、まあ綺麗どころを堪能してきて」  ひらひらと手を振ってマリアが小声で囁いて笑った。  余計なお世話よ。  と思いながら王子様の手を取り、腕を回す。まー、綺麗ではあるけどね。  流石に魔法使いさんが言ってたように、習った事もないステップが自在に踏める。売れば儲かりそうなのに。1回しか使えないならあまり高値は難しいか、と踊りながらどうでもいいことを考えてると、王子様と目が合った。 「……どうしました?何だか気もそぞろな感じですね」  と周りに聞こえないよう耳元で囁かれた。  あばばばば。王子様と踊ってるのになに考え事してるんだ私。内心早く帰りたいとかも顔に出てたかしら。 「……申し訳ありません。あ、あの王子様も大変ですね、こんなに沢山の人と踊らないといけないなんて。お疲れですよね。  私は適度に切り上げて次の方へー」 「イヤですよ。折角好みの女性が現れたんですから」  食い気味に即答された。  ……はい?  聞き間違いか?ああ、お世辞か。やだわ驚いたじゃない。  うーん流石に王子様だ。世慣れていらっしゃる。 「……私のようなガサツな平民にも気を遣われる必要はありませんよ」  興味もないですしね、は心の中にナイナイした。  こちらも周りに聞こえないよう小声で返す。 「僕は一目惚れを信じるタイプなんですシンデレラ。シンデレラって呼んでもいい?」  嫌ですとは言えないよね。王子様に対して。 「はぁ、まあどうぞ」 「シンデレラ、それで是非一度ゆっくり話をしたいのですが」 「あの、そろそろ曲が終わりますので……」 「延ばしてもらうよう伝えてあります」  何ひとの都合も聞かずに勝手なことしくさっとんじゃクソ王子。 「お待ちになってるレディをお待たせするのは失礼ではないかと思いますわ」 「僕への返事を待たせるのはどうなのかな」  ニコッと微笑む王子様は大変ダークサイドな香りがしますよ。フォースの力を信じられなかった人ですか。  とりあえず長引かすと拗らせるタイプと判断した。 「ではお断りします。私は舞踏会で踊って見たかっただけなので。  ありがとうございました」  曲の途中であるが、お辞儀をしてきびすを返す。  やだ怖い。何なのこの王子。  マリアのところに戻って「早く帰ろう」と乗り合いのところまで引きずっていく。 「何なのレラ姉さん?  っちょっと待ってってば」 「マリア、あんた踊ってる間に王子に好みのタイプとか個人的に話をしたいとか言われた?」 「言われないよーそんなこと。え?レラ姉さん誘われたの?すごーい」  スゴくねぇよ。むしろおっかないわ。  童話のシンデレラに出てくる王子様と同じレベルで病んでるじゃない。  会話もマトモにしてないのに一目惚れとか言われて喜ぶとでも思ってんだろうか。  疲れて気の迷いが出たんだろうか。  そら何十人と妙齢のレディと入れ替わり立ち替わりで踊ってるんだもんな。ストレスたまるよね。  興味なさそうに踊る人間が目についてちょっと心の厨二病が目覚めたとしても責められないか。  城を出て乗り合いに歩いて行く辺りで私もクールダウン出来た。   うん、むしろ私ごときに一目惚れとか言ってる時点でおかしいもんね。  マリアならともかく。  一時的な気の迷いってあるよね、王子様とはいえ人間だもの。 「いや、私の勘違いだったわ。うん。着なれない格好で疲れたんだわ私も。  明日も店開けるんだし、早く帰って寝よ寝よ」  乗り合い馬車に乗り込み、首を傾げてるマリアを横目に、通常運転に戻った私は、フレディさんともう会えないのかなぁ、という事の方が気になっていて、王子の厨二発言のことはすっかり頭から消えてしまっていたのだった。  数日後までは。
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