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そにょ5
「レラちゃん!ちょっと聞いた?」
父さんとお客さんが落ち着いたので昼休みにしてご飯の声がかかるのを待ってたら、カタリナかあさんが厨房に飛び込んで来た。
「何を?」
私はお腹すいたなー、とか思いながら問い返した。
「王宮であなたを捜してるみたいなのよ!」
「……なんで?」
「解らないから聞いてるんじゃないやあねぇ」
やあねぇはこっちの台詞ですかあさん。
「王子様と踊った時に何か不敬になることでもしたのか?」
父さんが尋ねた。
「……いや、その……」
王子様から好みのタイプだからゆっくりお話を、なんて社交辞令をマトモに受け取る庶民がいるのだろうか。
お断りして時間ないし帰っただけだし。いや、正直ホンマもんの好意だったらもっと困るでしょ、興味がないんだから。
それも、絶世の美女とかでもなく私だよ?
父さん達にざっと話してみたら、顔面蒼白になった。
「不敬罪に問われるのかも知れない……」
「えええ?」
父さんがウロウロと動き回る。
「本当に好意を持たれたのかも知れないじゃないか。それをあっさり袖にして帰ったとかになればだな、可愛さ余って憎さ100倍と言うだろう?」
これはヤバいかも知れん、夜逃げするかみんなで、などとウロウロを止めない父さんとカタリナかあさんを見ながら、何だか腹が立ってきた。
「いいよ、なんだか知らないけど、私悪いことした覚えもないし、王宮に行ってみる。不敬罪と言っても乗り合い馬車に間に合わなくなるからだし、情状酌量してくれるでしょ」
「いやしかし、」
リンリンリン、と自宅のドアベルが鳴った。
自分から行くつもりだったのに、お迎えが来たらしい。
うちの家族を怯えさせたわねクソ王子。許さん。
怒り心頭のまま、迎えの馬車に拉致られてお城へ向かった。
別に縄はかけられなかった。
うーむ。女が逃げても遠くにはいけないからだろうか。
お城の中に入ると、奥の部屋まで案内される。
「シンデレラ!よく来たね!」
よく来たねじゃねえわ。来させられたんだっつうの。
クソ王子の客間のようで、一番見たくない顔を見てしまった。
無駄にきらびやかな顔してるわね。眩しいのよ寝不足で。
それでも、礼儀としてスカートをつまんでお辞儀をした。
「私を捜してるとのことで参上致しましたが、何でございましょうか?」
「だから、昨日ゆっくり話しをしたいって言ったじゃないか」
座り心地のいいソファに私を座らせて、その横にジェフリー王子も座る。近いからちょっと!
「ですから私はお断りした筈なのですが」
「身分のことで謙遜してるんだね?大丈夫だよ、うちの父も母も寛容な人だから」
父とか母とか言ってますけど国王と王妃ですからね。
そもそもなんでそんな話になってるんだいセニョール?
え?国王と王妃に伝えなきゃならない不敬レベルなの?
「あの、急いで帰ったのは乗り合い馬車のためで、決して王子様を軽くみた訳ではな」
「気にしないで。
昨夜の舞踏会は、きっと君に逢うためのものだったんだから、大したアクシデントでもないさ」
私の髪の毛を触りながら、微笑む王子にサブいぼが全身に出た気がした。
少し王子から身体を離しつつ、
「……あの、正直にいうとですね、私は食事とお菓子を楽しむ目的で、舞踏会はあくまでもオマケでございまして、王子様とどうこうしたいとか、全く考えておりませんです」
「僕は一目見ただけで運命だと感じたのに、君はまだなのかい?」
まだって言うか、一生感じないよ。
1ミクロンも興味がないんだから。
「まあ、結婚してから愛を育むというのもいいんだけどね」
「けけっ、けっ、結婚て何でございましょうか?」
「僕と君」
「聞いてましたか私の話?王子様に会いに来た訳ではなくですね」
「しなやかなプラチナブロンドの髪、エメラルドのような美しい瞳、可愛らしい小さな手。ああ、どこをとってもシンデレラ以上の女性なんていやしないよ」
「幾らでもいま」
「一生大切にするからね」
聞け人の話を。
「あの!申し訳ないのですが、王子様と結婚するつもりはないのです。私は自分でスイーツの店をもつ夢があるので」
言ってやった、言ってやったぞ。
「王宮で好きなだけ作れば良いじゃないか、僕は甘いの苦手だけど母上は好きだよ」
そんなこといってんじゃないのよ。
王宮内で店をやれないでしょうが。
「私には過ぎたお話をありがとうございました。家族が心配しておりますのでそろそろ帰りた」
「僕が嫌いなの?」
「嫌いとか好きではなく、そもそも恋愛対象ではないのです。私はかなり歳上の方が好きなので」
「……それでもいいさ。いずれ僕を見てくれるまで努力するよ」
だから見ないって言ってんだろクソ王子。本当に人の話聞かないなこの人。
「……それとも、いっそ身体から始まる関係というのも悪くはないよね。シンデレラ限定なら」
何を?
理解が追い付く前にソファに押し倒された。
「ちょ、やめて下さい!」
「じゃ、結婚する?」
「だからイヤですって!」
「それじゃあ仕方ないよね」
仕方ないの意味が解らない。
押さえ込まれた腕もびくともしない。
細いのに流石に男性だ。
いや、そんなこと考えてる余裕はないぞ。服のボタンに手をかけようとして腕の力が緩んだ隙に突き飛ばして扉まで走る。
やだなんでカギがかかってるのよ!
「扉、表からしか開かないよ」
「帰して!」
「やだよ、だってもう来ないだろ?」
当然だよ。誰が自分を襲おうとしてる人のところに来るんだ。
「助けてー!」
扉をガンガン叩くが誰も開けてくれる様子がない。そら王子様の希望が優先だよね。
「もう諦めて僕と結婚しようよ、幸せにするから」
「現時点で不幸の極みだっちゅうの!イヤ~っっ!誰か~っっ」
涙まで出てきた。なんでこんな病んでる人に嫁入り出来ない身体にされそうになってるの私。
(フレディさん、助けて!)
切羽詰まった時にふと思ったのはフレディさんだった。
「変態!近寄らないで!父さーん、かあさーん!助けてー!」
「誰も来ないってば」
ジェフリー王子がそういいながら、私に迫って来たが、そこで扉がガチャガチャと乱暴に開いた。
「何をやってんだお前は!」
入ってくるなりいきなりジェフリー王子を殴り飛ばした男性を見て、絶句した。
「……フレディさん?」
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