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29『無辺街道のシリンダー』
かの世界この世界:29
『無辺街道のシリンダー』
ペギーの店を出てしばらく行くと、すっぽりと地面が落ち込んでいた。
例えば、本郷あたりから東に進んで日暮里当たり。
山の手の端っこから下町を眺めたようなところに出てきた。
と言っても眼下に荒川区の下町の賑わいがあるわけではない。ザックリと地理的に台地から平地への境だと言うことだ。
「無辺街道と言うらしいわね」
ウィンドウ表示された名前を言うと、ケイトは頬を強張らせながら頷いた。
女子化したことで気弱になったのか、気弱さの為に女子化したのか、最初の意気込みはどこへやらだ。
まあ中二病の空元気なんて金魚すくいのポイ(金魚をすくう紙張りのすくい網)に貼られた紙みたいに脆弱なものなんだけど。
無辺街道は半ば以上が風化したり埋もれてしまった黄褐色の石を敷き詰めたもので、所によっては数十メートル数百メートルにわたって途切れ途切れになっているのが分かる。
途切れた先に道が続いているには、いわば日暮里側の高いところから観ているからであって、うっかりしていたら見失う予感がする。
「まんいち見失ったら、お日様の昇る方向を目指したらいいみたい。憶えとくのよ」
念を押すと、ケイトがギュっとチュニックの裾を掴んだ。
二度敷石が消えてチュニックの裾が五センチは伸びたころに異変が起こった。
「ウ、気持ちわる」
ケイトが吐き捨てると同時に、ギュィーンと音がして目の前の風景が渦巻状に捻じれた。
ほら、RPGとかでモンスターとかクリーチャーとかが出現するときのエフェクト!
すると、目の前にお尻が現れた!
お尻と言うのは印象で、くわしく描写すると、直径30センチほどのプニプニの球体で、球体の下の方が窪みになっていてお尻に似ているのだ。そのお尻がプヨプヨと空中に浮かんで威嚇してくる。
「や、やっつける!」
口だけは勇ましいケイトは、チュニックの裾を掴んだまま後ろに回る。
「たぶんチュートリアルよ。ウィンド開いて弱点とか調べて」
「う、うん……だめ、ウィンドがテルと重なって見えない」
「離れりゃいいんでしょうが!」
「そ、そだね(^_^;)」
やっと裾を離したので、わたしは横っ飛びに跳んでソードを抜いた。
「どう、なにか分かった!?」
横目で見ると、ケイトはウィンドを開いたままガタガタと震えているばかりだ。
「チ、使えねー」
仕方なく自分でウィンドを開く。
シリンダー: 無属性クリーチャー HP100 突進攻撃を仕掛けてくる……
そこまで読んだところで、ソードを振りかぶって斬撃をくわえる!
「テーーー!」
一瞬シリンダーは避けようとするが、プヨプヨの上下動が激しい割には鈍重で、わたしのソードは水ようかんを切ったほどの抵抗があっただけで、シュッと向こう側に抜けた。
シリーーー!
蛇を思わせる悲鳴を上げて、斜め上に赤い傷跡が付いた。
シリンダーの上にはパワーゲージが出ていて、それが一撃を加えただけで半分近く減ってしまった。
楽勝だな。
そう思ってジャンプすると空中二回転で奴の後ろにまわって第二撃を食らわせる。
さすがに躱されたが、それでも切っ先がニ十センチほどに切り裂いて、やつのゲージは残り三割ほどになった。
「ケイト、そこからでいいから矢を射かけて!」
「わ、わかった(;'∀')」
ポロリ
返事は良いが、つがえた矢は何度やっても構えた弓の先からポロリと落ちる。
シリンダーがニヤリと笑ったような気がした。
まずい!
シリンダーとわたしの跳躍は同時だった。
「セイ!」
跳躍した瞬間のシリンダーを両断した。シリー! 一声吠えたかと思うと、シリンダーは幾百のポリゴンに分裂して消えてしまった。
「ど、どうよ、気合いだけでやっつけてやった!」
「バカ、わたしが仕留めてなきゃ、あんたがやられてたわよ!」
美少女の見かけの割には役立たずのケイトを一発張り倒して無辺街道の旅を続ける二人だった。
HP:200 MP:100 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)
持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル
装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1
☆ 主な登場人物
寺井光子 二年生 今度の世界では小早川照姫
小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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