03『かの世部』

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/232ページ

03『かの世部』

かの世界この世界:03 『かの世部』     ぼんやりと天井が見えた。  和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の感触。  自分の部屋で目覚めた感覚……悪い夢を見たんだ……でも、夢だったんだ。  いけない、起きなきゃ遅刻する。  人の気配、お母さんに起こされるのは癪だ。 「起きれたようね」  え……お母さんじゃない?  仰向きの視界に入って来たのは、見慣れないセミロング、制服の襟には一個上の学年章……三年生? 「よかった、パニックにならないで」  もう一人の声……目だけ動かすとポニテの三年生。 「あ、あの、わたし……」 「大丈夫のようね、起こしたげようか?」 「え…………」 「「……うんしょ」」  返事をする前に起こされる。 「すみませ……!?」  起こしてもらって視界に入ったのは、枕もとに血が滲んで無残に破れた制服。 「痛い……」  同時に胸から顎にかけての痛みが走る。  これは……冴子の爪にやられた傷……破れた制服……追い詰められて屋上から飛び降りたはず? 「ごめんね、事件が起きる前までは戻せなくって」 「旧館に飛び込んできて、廊下を突っ切るか、屋上に行くかで迷ったでしょ」  たしかに、廊下の先は行き止まりだと気づいて屋上に向かったんだ。  でも……。 「時間を巻き戻して、あなたが廊下を突っ切るという選択肢にしたの」 「廊下の突き当り、一つ手前が、この『かの世部』への入り口になっているの」 「めっぽう分かりにくいんだけども、あなたは、うまく気づいて飛び込んできたのよ」  え? え? えーーーー!?    事態をよく呑み込めない、でも、でも、冴子を殺してしまったことが現実であることに激しく動揺してしまう。 「そう、心配よね。まだ事件は起こったままなんだから」  二人の先輩は、痛ましそうに眉根を寄せる。 「でもね、ここからは、寺井さん、あなた自身の力でやってみなきゃ」 「や、やるって……?」  ポニテ先輩の顔が寄って来る。 「もう少し時間を巻き戻して、事件の原因を取り除きに行くの。寺井光子さん、あなた自身の力で」 「でも、そのためには『かの世部』に入ってもらわなきゃならない」 「とりあえず仮入部でいいから、トキ、書類を」 「はい、ここにクラスと氏名を書いてもらえるかしら」  え? え? 訳わかんないよ? 「えとね、わたし達『かの世部』の部員で、わたしが部長の中臣美空(なかとみみそら)、ポニテのほうが副部長の志村時美(しむらときみ)、よろしくね」    ドタドタドタ……ドタドタドタ……  天井の斜め上あたりで何人もの人がイライラと駆け回る音がした。 「先生たち戻って来たみたいよ」 「「急いで!」」 「は、はい」  慌てて入部届にサインした。  とたんに光が溢れて目を開けていられなくなった……。 ☆ 主な登場人物  寺井光子  二年生  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長  
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!