05『二日前・2』

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05『二日前・2』

かの世界この世界:05 『二日前・2』           頼まれたら引き受けてしまう。  気の弱さか人の良さか。 ――女子二人体調不良で来られなくなった、来てくれないか?――  メールだったら断ることもできたんだけど、直に電話されては断れない。青年部長の高階さんは困り果てたという声だし。 「分かりました、直ぐに行きます……いいえ、大丈夫です」  そう答えて後悔はなかった。  神社に行っても回避する方法はあるだろう、お札は女子、それも十三歳から十六歳でなければ触れない。  それに、記憶では女子の休みは無かったはずだ。前回とは様子が変わっている。  注意さえしていればヤックンの告白を回避できるだろう。 「遅くなりました、がんばります!」  勢い込んだ挨拶が、われながらおかしかった。  奥のテーブルが女子の仕事場。  まちがって資格のない者、特に男が入り込まないように赤い毛氈が敷かれている。  八人の女子が向き合って、せっせとお札を作っている。  神さまの名号を書いて朱印を押して、乾いたら裏に祭りの日付、そして熨斗を付けて袋に詰める。  これだけの事なんだけど数が多いし、字体を始め朱印の押し方熨斗の付け方に型があって、けっこう面倒なのだ。  わたしも冴子も今年で四年目になる十六歳。  今年で最後。去年は人が足りずに、普通、最初の十三歳で演る巫女神楽を冴子と一緒にやった。  今年は、めでたく新人の十三歳が演るので、二度も務めた私たちは、ま、先生役だ。  その神楽のお稽古もあるので、お札は早く片づけなきゃならない。  十分ほどして気づいた。        座っている所が前回といっしょなのだ。向かいに冴子が居て、端っこの二つが空席だ。  二人休んでいるから変わっているはずと思っていたんだけど……そうか、前回も二人は休んでいたんだ。  ベテランのわたしが最初からいたから、高階さんは、二人休みと連絡が入っても、慌てて電話なんかしてこなかったんだ。  このままだと同じ展開になる。  キリがいいのでお茶を飲みに行く。それを潮に座る場所を変えよう。  お茶を一息で飲み切ると「よし!」と掛け声かけて端っこの空席に回る。  場所が変わった新鮮さなのか作業は一段とはかどり出した。  あ、ヤバ。  二つ向こうのテーブルで作業をしているヤックンと対面(といめん)になってしまう。  正直視線を感じる。前回はコクられるまで意識しなかったけど、ヤックンは、こんな視線でわたしを見ていたんだ。  今さら、元の席に戻るのはあからさまに過ぎる。  ヨッコイショ、こっち仕事溜まってるね。  ヤックンの視線を遮るように冴子が、わたしの前に座った……。   ☆ 主な登場人物  寺井光子  二年生  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長  坂本保夫  光子・冴子の共通の男友達 ヤックン    
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