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翠の杖のガウエン。親父がそう呼ばれていた事を知ったのは、王都にある魔術師ギルドに連れられた時だった。
七つの時だ。いつもは鍵がかかっている親父の書庫に入り、その中の一冊を取り出し、文字を指でなぞり火を放ってしまったのだ。
幸いぼやで済んだのだが、魔法文字を指でなぞっただけで、俺が着火の魔法を発動させたことに親父は驚き、王都へと連れてこられたのだ。
辺境で生まれ育ち、魔術師として才を見出され、後に翠の杖の称号を得た男の次男坊。俺は魔術師ギルドの学び舎に席を置いたときから、そのように見られ、親父のような魔術師になるだろうと目されていた。だが……
頼んでいた料理が運ばれてきた。雑穀が混じったパンに、くず野菜のスープ、出汁をとったあとの骨付き肉から肉を削ぎ落としたもの。貧乏学生のための食事だ。それを食べていると、中庭の方から魔術師を目指す学生らの声がしてきた。
あれは「明かり」の魔法言葉だ。「明かり」は、魔術師として初歩的な術だ。
だが俺は、その最初に覚える術から躓いてしまった。魔法文字が読めても、正しく綴ることが出来なかったのだ。
あの時、さっさと故郷に戻っていれば、今の俺はいなかったであろう。
王都で暮らすために始めた盗みが、あっという間にばれ、魔術師ギルド、盗賊ギルド、そして親父にこってり絞られて……
両ギルドの監視下の元、遺跡探察専門の魔術が使える探検家として、俺は腕を磨いた。
そんな俺に、親父は死の間際、魔術師として依頼を出していた。親父は、俺に何をさせようというのか。
今は考えても仕方がない。一刻も早く、故郷に戻ろう。
俺は空になった食器を一つにまとめ、洗い場へと運んだ。
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