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おまけ2・ドタバタ!ミーナの吸血鬼騒動
ギルの朝は早い。
まだ日の出が昇らない時刻、仕事に向かうため起床すると隣で寝ている佑月のおでこにキスを落とす。
その隣で佑月を抱き締めた状態で寝息をたてているハルトの腕(無駄に力んでた)を外し佑月と充分に距離をとらせた後、洗顔しに洗面所へ向かう。
そして、ミーナが用意した食事を済ませると支度を終わらせ次第ギルドに向かうのだ。
ちなみにハルトはギルの約1時間後に起床する。
佑月が起きるまで暫く寝顔を堪能するのが日々の楽しみとなっている。
※
「…生きてるか?今にも死にそうな面だが」
茜色が空に染まり始めた頃、ギルは仕事から帰る途中、木の影で丸まっているミーナを見つけた。
「…ほっといて」
体育座りで膝に顔を埋めるミーナの隣に、ギルは同じ目線になるよう腰をおろした。
「顔色がやけに悪い。貴様ひょっとして…」
「……るさい」
「貧血か?」
「………ほっといてって言ってるでしょ!!」
「やっぱりな」
ミーナは吸血鬼である。
定期的に人間の血液を摂取しなければ喉が渇き死ぬか、または凶暴化する。
普段は隠すように制御してるのだろうが鋭い2つの牙は丸出しになっており、荒い息を繰り返していた。
最近、経営が忙しいすぎて摂取し損ねたのだろうか。そんなことを考えながらギルは大剣を鞘から抜き出すと手首を薄く切った。
一筋の線ができ、そこからタラタラと血がこぼれだす。
その様子をミーナは鋭い目付きで見ていた。
眼には熱がこもっている。
小さな口からはポタポタと涎が溢れ出ていた。
「我慢せず飲んで良いぞ。」
「いらない」
頑なに断るミーナの鼻先にギルは出血が止まらない腕を近づけた。
「早く飲め。俺はさっさと宿に帰りたいんだ」
「でも」
「鍛えているからな。多少の貧血で倒れたりなどはせん。」
「そう…かもしれないけど。アンタ佑月と付き合ったんでしょ。嫉妬とかされないの?普通パートナー以外の吸血を禁止する人が多いの知ってるでしょ?」
「やれやれ、そんなことを気にしてたのか。生憎佑月は心が広い。死にかけてる奴に吸血するなと言う人ではない。」
「ぐっ、それは……確かにそうかも知れないけど」
「そうと決まればさっさと飲め」
更に近づけた腕はミーナの口元に当たった。
ミーナの荒い呼吸は止まり、かわりにゴクリと喉を動かす。
「後悔しても知らないから。」
そう言葉を放つとミーナは凄まじい速さで首元に噛みついた。
ギルは針に刺されたような痛みと同時に少しずつ感じる快感に気づかないふりをする。
ギルはゴクゴクと喉を上下させるミーナを、なるべく見ないよう目を伏せた。
力が抜けていく感じがする。
身体がだるい。
頬に熱がたまる。
短くなる息。
クラクラする。
視界がぼやける。
……気持ちい。
そうぼやっと考えていた時、事件は起きた。
「おや、ギルじゃないか。」
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