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聞き覚えのある声だった。
ひどく懐かしい声。
これは…。
「じーさん」
「ふぉっふぉっ」
血の繋がりもないのに出会った頃から色々と気にかけてくれる不思議な人だ。ギルも悪い気はせず実の親のように思っている。
そういえば魔王討伐出発前、じーさんに嫁を紹介するって約束をしたな。
今度、佑月を紹介するか。
「いいかい、ギル。いくら恋人が可愛いくても公の場で盛っちゃいかんよ。影になって多少見えにくくなってはいるが年寄りのわしが気づいたほどだ。大して隠れになっとらん。」
「なっ」
「は?」
ミーナとギルの言葉がはもった。
確かに、ミーナが首元で血を吸ったためギルの襟元ははだけている。
それにギルは木を背につけ、臀部を地べたにつけた状態。ミーナはそれに覆い被さるような体勢だ。
傍から見れば…まあ、確かに勘違いしそうな光景だった。
だが……。
「じーさん、ミーナとは恋人じゃない。ただの知り合いだ。」
「知り合い?そんな訳なかろう。ギルは優しい子じゃ。知り合いだけでそんなふしだらな行動はせんと分かっておる。」
「「・・・・・・。」」
「ああ、確かに俺は知り合いを訳もなく襲ったりはしない。これはミーナの食事だ」
「まあなんと、変わったプレイをするもんじゃな」
「「違う!!!」」
「なにこのおじいちゃん。話し通じないんだけど?!」
ミーナは我慢できないといった風に息を潜めながらギルにきれる。
これにはギルも反応に困った。
「許してやってくれ。これでも俺が尊敬する大切な人なんだ」
同じくヒソヒソ声で返しながらどう切り抜こうかと頭を巡らせる。
とりあえず誤解が解けるまで説明して…。
「あれ、ギルじゃん。こんなところで何…し…て」
「チュン?」
「「「「・・・・・・・。」」」」
ギルは悟った。
またややこしくなったと。
「ギ、ギ、ギルがミーナさんに襲われてるううう?!」
「チュウウウウウウウウウン?!」
「ちっがぁあああああう!!」
「そんな、こんな所で大胆…じゃなくて人の恋人に何してるんですか?!」
「はあ?!誰も娶ろうとしてないわ!!」
「俺が娶られる側なのかよ」
「誤解が悪化するから黙ってて!」
「チュウン」
チュン虎と佑月は散歩中だったのだろうか。
装備なしのラフな格好だ。
いや、そんなことを考えてる場合ではない。
止めろチュン虎、そのような軽蔑した眼で俺を見るな。
佑月もてんぱってるようだが誤解だ。
「ミーナさんが旦那さんでギルがお嫁さん…ごっついお嫁さんとちっちゃい旦那さん…」
駄目だ、完全に自分の世界に入っている。
何を想像してるんだ一体…いや、知りたくもないが。
しかし、まだ嫌な予感がする。
俺の勘は当たるからなこれ以上悪化しないためにも…。
「ミーナ、とりあえず俺から離れろ」
「う、うん。分かった…きゃっ?!」
慌てて立とうとしたからだろう、覚束ない足取りだったため、ミーナはつまずきバランスを崩した。
「おい!」
ギルは慌ててミーナを掴んだ。
その体勢はまるで抱きしめるかのようだった。
「へぇ、佑月がいる前で堂々と浮気…ね?」
声だけで分かった。
低く、冷えきった声。
「ハルト…」
「うんうん。別に僕は全然良いんだよ?佑月を独り占めできるし邪魔物は消えて万々歳だし。………でもね」
「………っ」
「佑月の悲しませるようなことしちゃ駄目だよ。エクスプロージョン!」
「待て貴様っ、誤解だああああああ!!」
爆音と同時に出た悲鳴はギルにしては珍しく情けない声だった。
この後、ミーナとギルの長時間に渡る説明でなんとか誤解は解けたのだった。
終
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