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隠し事
「蒼晴! 大丈夫かよ!」
「蒼晴! 無事!?」
蒼晴達が金熊童子を倒してからしばらくすると、煌舞と陽咲、その後に葵巴も合流した。
陽咲も目を覚まし回復したようで普通に走ってきた。
「はい。僕は飛龍さんと優吉さんが来てくださったのでなんとか」
「それなら……って、うお!? 鬼の死骸!?」
煌舞が倒れている金熊童子を見て大袈裟に驚きを表現した。
「お前、よく倒せたな。俺は逃がしたのに」
驚きを引きずったまま告げると、蒼晴は恥ずかしそうにはにかみ、飛龍はドヤ顔で胸を反らせている。
「あったりめぇだ! 俺様を誰だと思ってる」
「チビ」
「うぉい!? ぶっ殺すぞ!」
真顔で答える煌舞に飛龍が牙を向けて唸っている。
それを見て周りが笑っていていつもの日常の光景がそこにはあった。
みんな何の変哲もないこの様子に喜びを感じている。
だが、そんな喜びをぶち壊すかのように紅巴の冷たい声が稲妻のように割って入ってきた。
「仲良しごっこもそれくらいでいいかしら?」
そのいつもよりも増して冷たい言葉に全員の会話がピタリと止んだ。
「みんな現実逃避してるようだから、教えてあげるけど、今回の事件はこれで終わりじゃないわ」
「……どういう事?」
優吉がいつもよりも真剣な声色で聞き返し紅巴の表情が険しくなった。
「蒼晴くん達が倒したのは金熊童子。それはわかるわよね?」
紅巴の問いかけに煌舞と陽咲以外の全員が首を縦に振る。
煌舞と陽咲は今来たばかりだから誰かわからなかったのだろう。
「それで、これは専門家の飛龍達しかしらないと思うけど金熊童子は酒呑童子の部下なの。つまり、酒呑童子が動き出したわ」
淡々と話している紅巴とは裏腹に煌舞と陽咲の顔は真っ青になっている。
そして、飛龍、優吉、蒼晴は項垂れるように目線を下に落とした。
酒呑童子は有名な鬼で陰陽師の類ではない煌舞や陽咲、蒼晴ですら知っている。
煌舞は何か恐ろしいものを前にしてるかのように肩を小刻みに震わせている。
「うそ……だろ? だって、あいつはとっくの昔に安倍晴明に……」
「煌舞〜。酒呑童子の怖さは煌舞が一番よく知ってるはずだよ〜? そろそろ隠し事はやめた方がいいよ〜」
今まで黙っていた葵巴が辛そうに微笑んだ。
まるで、我儘を言う子供をやむを得なく叱る母親みたいに。
葵巴に続くように次は紅巴が口を開いた。
「昨日の誘拐事件、それで、妙に強い妖気を感じたからどういう人を誘拐してるか観察して条件に相応しい人に化けたのよ。それで私は誘拐されたんだけど」
みんなが黙って聞き入っている中、煌舞の額から変な汗が滲み出ていて、爪がくい込むほど拳を強く握った。
「そしたら、あの小屋に2人の男が来たわ。とても強い妖気を持つ男2人。黒髪の男と黒と赤のハーフ髪の男」
「やめろ」
地から這い上がるような低い声で一言煌舞が呟いた。
たった一言なのに、空気が凍りつくかのようにピリピリとしたのは全員わかった。
だが、それでも気にせず紅巴は続ける。
「彼らがおそらく、首謀者ね。それに、誘拐されてる人達はみんな白髪。つまりーー……」
「それ以上言うな! それ以上言ったらお前でもただじゃ置かねぇぞ」
煌舞の震える声の脅しで紅巴は諦めたかのようにため息をつく。
「そういう選択をとるのね」
その険悪な空気の二人に割ってはいるように飛龍が声を上げる。
「おい。紅巴。さすがにやりすぎだ。人には秘密のひとつやふたつくらいあるだろ」
「あら。飛龍はあっちの味方をするのね」
「おう。あれでもダチだからな」
飛龍が迷いなく煌舞を庇うと紅巴は「わかったわ」と言って、背を向け、歩き出すと夜明けの空に入っていくかのように消えていった。
「ごめんね〜。私が余計なこと言ったから〜」
紅巴がいなくなると葵巴が煌舞にそっと耳打ちした。
「いや、いいんだ」
煌舞は力なく笑顔を作り、葵巴は軽く手を合わせてもう一度謝った。
「あの、今回の鬼隠しはどういう事ですか? この愚兄となんの関わりが?」
「そうだね〜。煌舞と深く関わったかって聞かれたら私からは否定も肯定も出来ないけど〜。むかーし、蒼晴達も生まれる昔に酒呑童子とほか二人のとっても強い妖がいたの〜。悪さして封印されたんだけど〜。復活しちゃったみたいで、今の鬼隠しを利用してちょくちょく悪さしてるらしいよ〜」
「じゃあ、最近人が少なく感じるのも……」
「うん〜。確実に酒呑童子達の仕業だね〜」
(僕達以外にも人間を狙ってる鬼がいたなんて……)
蒼晴が顎に手を当てて考える仕草をとっていると、飛龍の顔色が悪くなり首元についている赤い石のネックレスを強く握った。
「飛龍さん?」
「わりぃ。そろそろ仕事に行くわ」
蒼晴の呼び声にはっと我に返りそう言ってどこかへ行ってしまった。
「ごめん。ボクもそろそろ行くね」
優吉もその後について行くように早足で追っていった。
「俺も、飛龍に話があっから!」
その次に煌舞、そして、いつの間にか葵巴はいなくなっていた。
残されたのは双子のみ。
周りが居なくなったことを確認してから陽咲が声を潜めて言った。
「蒼晴、気づいてたでしょ?」
「陽咲だって、気づいてますよね?」
二人はお互いで顔を見合わせて大きく頷いた。
「もしかしたら、兄ちゃんは俺達の兄ちゃんじゃなくて、全然違う生き物なのかもしれない」
「それでも、僕達はあの愚兄に何百年も守られてきました」
「さっきだって、たぶん魂が足りないから全力を出し切れてなかったんだよ」
「それでも守ってくれたんですよね?」
「うん」
お互いはそれぞれの気持ちを確かめ合うように語ると握手のように強く右手を握った。
蒼晴の右目は青くなり、陽咲の右目は緑色になって爛々としている。
これは鬼化した時の目だが角が生えてこないためギリギリのところで鬼になるのが制御されてるのだろう。
「今度は僕達が煌舞を守る番です」
「何があっても、酒呑童子って奴に兄ちゃんを渡さないようにしようね」
「「約束!」です!」
声を揃えて約束をかわすと二人は仲良く走って家の方へと帰っていった。
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