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序章
ーー時代は令和。
どこの都道府県も発展し、昔よりもかなり暮らしやすくなっていた。
ここ京都も昔の日本の面影を残しながらも街にはたくさんの人達で溢れかえっている。
そんな中でも一際静かな林の中にポツンと佇む寂れた神社。
鳥居は色が剥がれ落ち、茶色くなっていて、狛犬の石像があったであろう場所には砂のように粉々になった石が山のように積まれていた。
そして、木造でできた神社は今にも崩れ落ちそうで参拝者はもちろん、神主すらいる気配はない。
そんな神社のお賽銭箱の上に1人の青年がいた。
罰当たりな行動に見えるが、悪びれる様子もなく静かにそこに座っている。
ただ、その青年の瞳は何かを捉えているわけでもなく、ぼーっと前を見続けているだけで、霞んでいるガラス玉のようだ。
「ーー兄ちゃん兄ちゃん!」
「ん? おぉ。小僧じゃねぇか?」
そんな廃墟のような神社に1人の甚平姿の少年が駆け寄り、青年の霞んだ目には一筋の光が宿った。
「ねぇねぇ! また何かお話聞かせてよ!」
純粋な光を宿している少年の瞳を見て、青年は眩しそうに目を細める。
「わぁったよ。そんな急かすな。で、何話してほしい?」
「んーとね。鬼! 鬼の話!」
少年の返事に青年の眉尻がピクっと動く。
「兄ちゃんなんでも知ってるから鬼も知ってるでしょ?」
好奇心旺盛の少年は青年の答えを待てずにぐいぐい聞いてくる。
「……そう、だな」
重たい口を開き、歯切れの悪い返事をすると青年はお賽銭箱から降りてお賽銭箱の前にある段差に腰をかけた。
その隣に真似するように少年も腰をかける。
「お話してくれるの?」
「おう。お前が何で鬼に興味持ったか知らねぇけど、俺の知ってる鬼はそんな悪い鬼じゃねぇよ?」
「そうなの? 桃太郎だと退治されて主人公の引き立て役だったけど?」
不思議そうに首を傾げる少年に青年は「はは」っと苦笑を浮かべ頭をかいた。
「前々から思ってたんだけど、お前割と毒舌だな」
「毒舌? そうかな?」
「ったく、いったいいくつなんだよ?」
「今年で10歳だよ! それよりも、早く話してよ」
「そう急かすな。どこから話そうかなぁ。んー……そうだなぁ……」
期待を込めた眼差しで見てくる少年を見て、少しだけ考える仕草を取ってからまた口を開いた。
「むかーしむかし。といっても、明治時代の頃。とある仲良しの3人兄弟がいたーー」
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